東京芸術大学は国立大学です。
一般大学と同様に、国立大学である東京芸大は私立大学と比べて入学試験の難易度は格段に上がります。
しかし、東京芸術大学と私立美術大学にはレベルだけでは測れない違いがあるのです。
今回は、東京芸術大学と私立美術大学、そして私立美術大学の中でもそれぞれの違いについてお話しします。
東京芸術大学とは?
明治20年に設立された東京美術学校が前身です。
現在は、美術学部と音楽学部からなり、それぞれ美校と音校と呼ばれています。
今回は美校にスポットを当てましょう。
東京芸術大学は芸大と呼ばれ、私立の美術大学のように美大と呼ばれることはあまりありません。
芸大はとにかく入学試験のレベルが高いです。
美大受験予備校には「芸大コース」のように芸大受験をする生徒だけを集めた特別クラスがあり、授業は芸大受験に特化した内容で構成されています。
芸大受験は、試験内容から私立の美大とは全く違います。
さらに求められるレベルも「写真と見間違えるくらいの写実性」は当たり前で、さらにモチーフの内面や作者の感情が伝わる「なにか」をプラスする必要があります。
卒業生には、横山大観や東山魁夷、藤田嗣治や平山郁夫など美術の教科書でみかける人物がたくさんいます。
さらに岡本太郎や柳宗理、青沼英二氏(ゲームデザイナー)やタナカノリユキ氏(アートディレクター)など時代が求める人材を多数輩出しています。
美大生は「個性が強い」とよく言われます。
見た目も個性的な服装や髪形をみれば一目で「美大生」とわかります。
しかし芸大生は意外と地味な見た目の人が多くいます。
個性は見た目や見られ方にあるのではなく、内面の芯として持っている人が多いのではないでしょうか。
私立美術大学とは
武蔵野美術大学
私立の美術大学は武蔵野美術大学、多摩美術大学、東京造形大学、女子美術大学、日本大学芸術学部をまとめて五美術大学と呼ばれることもあります。
中でも武蔵野美術大学と多摩美術大学はムサビとタマビと呼ばれ私立の美大を代表する2校と言えるでしょう。
ムサビの入学試験には今から20年ほど前は「一次足切り」と呼ばれるものがありました。
ムサビには一次試験と二次試験があり、一次試験に合格しなければ二次試験に進むことができません。
一次試験で半数が落とされます。
さらに一次試験は学科試験のみです。
一次試験で落ちてしまえばデッサンも絵も一度も描かずして不合格が決定します。
そのため、当時の受験生は「ムサビは頭がよくないと合格できない美大」と考えていました。
今でも「ムサビは実技だけの美大ではない」というイメージがあるようです。
現在のムサビの教育理念は「教養を有する美術家養成」であり、まんざらイメージだけではないのかもしれません。
現在は一次足きりはなくなり、学科と実技の総合計で合否が決まります。
ムサビの卒業生には奈良美智氏や原田泰治氏などの画家以外に、六平直政氏(俳優)や草野マサムネ氏(ミュージシャン)、中村史郎氏(日産自動車)や内館牧子氏(脚本家)のように多方面に活躍している人材を輩出しています。
多摩美術大学
タマビは、ムサビよりもさらに個性的な美大というイメージがあるのではないでしょうか。
タマビの卒業生は松任谷由実氏(歌手)や竹中直人氏(俳優)など個性的な人材が多く、芸能分野に多くの人材を輩出しています。
またタマビは、かつて二部(1999年に造形表現学部に改組)という学部がありました。
これは夜間に開講する学部で、さまざまな理由で昼間は働く人たちが受験する学部でした。
「美大はお金がかかる」という理由であきらめていた学生にとっては稼ぎながら夢を叶えられる学部でしたが、2014年度から募集が停止され、現在はなくなりました。
タマビは、現在でも子どもを対象にした講座など多くの人に美術と接する機会を提供しています。
その他の私立美大と新しい学科
女子美術大学は、他の美大と比べてきれいなイメージです。
ホームページの作りも他美大とは雰囲気が違います。
東京造形大学は、東京オリンピックのロゴマークで有名になりました。
美術という言葉が入っていない大学ですが絵画からデザイン、彫刻や映像まで学科がそろっています。
美大の学科は時代に応じて変わっています。
近年は、絵画やデザインというジャンルを超えた学科、自分が作品を作るのではなく「作る人をプロデュースする人材」を育成する学科が登場しています。
また、アニメーションやCGなど以前ならばダブルスクールで学びに行かなければならなかった学科もさまざまな美大で登場しています。
おわりに
東京芸術大学にしても私立の美術大学にしても、昔は「美大は別世界」というイメージが強い大学でした。
しかし現在は、一般大学との交流も増え美大の構内を他大学の学生が歩いているという光景も当たり前になっています。
倍率も20倍以上という時代は終わり、入試方法の種類も増えました。
昔のような美術ができる人だけが行ける大学ではなく、現在は美術に興味がある人が「入れる大学」に門戸は大きく開かれています。