浮世絵は、今でも国内に残り販売されています。
浮世絵はもともと大衆にむけた印刷物でした。
もちろん歌麿や広重などの有名な浮世絵は、作品として芸術的価値が認められ高値で取引されています。
しかし、絵画作品ならば、最低価格でも数十万円が相場ですが、有名な作品以外の浮世絵は数百円から買うことができます。
この記事では、海外でも人気の浮世絵の魅力と有名作品を紹介いたします。
浮世絵の歴史、成り立ち
浮世絵は、江戸時代に多く作られたもので、今でいえば、ちらしや雑誌にあたるものです。
絵画作品のように時間をかけてじっくりと描かれる「作品」というよりは、たくさん作られて「消費されるもの」というイメージの方がちかいのかもしれません。
浮世絵は、画家が最初から最後まで描くのではありません。
「版元」という出版社にあたる者が、「絵師」に企画を持っていて絵を依頼します。
絵師は、絵を描き出版許可を申請します。
申請がおりたら彫師に下絵を渡して版木に彫ってもらうのです。
版木が完成したら、摺師(すりし)が絵を摺(す)ります。
この段階では、摺師が摺った絵に色はありません。
再び絵師に摺りあがった絵を見せて、色の指定をしてもらうのです。
彫師(ほりし)は、色の指定通り色版を作ります。
浮世絵は、現代の印刷のように一度に複数の色を摺ることができません。
1色に1枚の色版が必要です。たくさんの色版を1枚の浮世絵に仕立てることは、摺師の腕の見せ所になります。
絵師の許可が下りたら「初摺」を200枚作り、絵草子屋から販売されるのです。
「初摺」は、絵師の目が届く範囲で作られた浮世絵です。
初摺に対する言葉で「後摺」があります。後摺は、いわゆる追加発注で摺ったものです。
後摺は、絵師の目が届かず、版元の都合で作りかえられてしまい、初摺とは似ても似つかないものもあります。
マスコミや雑誌の役割を担った浮世絵は、明治後半になると大量印刷の技術の登場によって急速に姿を消しました。
作者の有名・無名問わず、浮世絵ファンが海外に多い理由
浮世絵は、絵の内容がさまざまだったため、幕府から規制を受けました。
浮世絵で有名な喜多川歌麿は作品が規制にふれたため手鎖を50日も受けています。
浮世絵は、江戸庶民には人気がありましたが、今のように美術・芸術として扱われることはなかったのです。
浮世絵は、美術品として大切にされるものではなく消費されるものでした。
そのため、用が済めば新聞紙のように物を包む包み紙として使われることもありました。
浮世絵は、作者や作品の有名・無名問わず、日本よりも外国での人気がとても高いです。
浮世絵の魅力は、日本より早く外国に浸透しました。
その理由は、浮世絵の評価が日本と海外とでは雲泥の差があったからです。
フランス画家ブラックモンが、送られてきた陶器の包み紙として北斎漫画をみつけました。
ブラックモンは、とても感動しマネやドガに北斎漫画をみせたのです。
それから十数年後には、パリの万国博に浮世絵が出品されました。
海外では浮世絵が美術のジャンルとして認められ、貴重な作品が保管されています。
一方の日本では、幕府に規制され浮世絵は「下層階級の美術」とされてきました。
国内に残っていたわずかな浮世絵が海外に流出し、多くのファンを獲得していったのです。
これだけは知っておきたい有名な浮世絵
<富嶽三十六景 凱風快晴>葛飾北斎
「凱風快晴」(赤富士)は、葛飾北斎を代表する有名な浮世絵のひとつです。
女性や吉原の絵を描く人が多い中、北斎は風景を描きました。
風景画は幕府の規制にもあわず、たくさん作品を摺ることができたのです。
凱風快晴の青色は「ベロ藍」といいます。
ベロ藍は、外国から入ってきた化学染料で湿気に強く、ぼかし摺を得意としていました。
<ビードロを吹く女>喜多川歌麿
喜多川歌麿は美人画を得意とし、「ビードロを吹く娘」(「ポッピンを吹く女」ともいう)は、切手のデザインにもなりました。
歌麿は、切見世など「春画や好色本など風紀上好ましくない内容のもの」を描いていたため幕府の規制にあいます。
喜多川歌麿は手鎖50日の刑を受けます。
刑があけた歌麿は、満足できる絵が描けなくなります。
それでも歌麿の人気は高く、2年後にこの世を去ります。
<名所江戸百景大はしあたけの夕立>歌川広重
この作品は、ゴッホが模写したことで有名な浮世絵。
この絵は、橋よりも高い位置から見下ろして描いているようにみえます。
しかし、この時代に橋よりも高いところはなかったため、広重が頭の中で視点を上げて描いたといわれています。
それまでの「静」のイメージがある浮世絵ではなく、降りしきる雨の中を人が急いでいる「動」のイメージが強い作品です。
おわりに
今回は、海外でも人気がある、浮世絵の魅力と有名作品について紹介しました。
有名にはならなかったけれど、江戸時代に庶民の手に渡った魅力的な浮世絵は多くあります。
海外での浮世絵人気は今でも高く、浮世絵を購入するために来日するファンがいるほどです。
江戸時代に庶民の口となり、幕府に規制されてもたくましく生き残った芸術が浮世絵なのです。
浮世絵には、絵画作品のように画家(絵師)のサインがありません。
パッと1枚みただけでは、初摺か後摺かもわからないでしょう。
しかし、サインがなくても、例え後摺だったとしても江戸時代の庶民の心に潤いを与えた絵ならば、浮世絵はすべて本物の芸術といえるのではないでしょうか。