エミール・ガレは、アール・ヌーボーの巨匠と呼ばれていますが、曲線や見た目の美しさだけならばこれほど人を魅了することはなかったのかもしれません。
この記事では、作品やモチーフに込めたメッセージや象徴が美しさとなり、人々の心を惹きつけたエミール・ガレの魅力に迫ります。
アール・ヌーボーとは?
アール・ヌーボーとは「新しい芸術」という意味のフランス語です。
19世紀の終わりごろから20世紀の初めごろまでに広がった芸術運動をいいます。
植物や昆虫などをモチーフにした曲線的なデザインが特徴です。
アール・ヌーボーは、絵画のジャンルだけではなく、ガラスや建築にもおよびます。
代表的な芸術家は、エミール・ガレの他にウィリアム・モリスやガウディがいます。
アール・ヌーボーに似ている言葉でアール・デコがありますが、全く種類が違います。
例えば、階段をデザインするとき、アール・ヌーボーならば螺旋階段にして装飾には花やつるが巻きついたデザインになるでしょう。
一方のアール・デコは、階上に向かう最短距離で階段をつくり、模様は直線的になるでしょう。
アール・ヌーボーは、とても贅沢なデザインで時間とお金がたくさんかかりました。
そこで、デザインをシンプルかつ実用的にしたものがアール・デコです。
アール・ヌーボーの巨匠エミール・ガレ
エミール・ガレは、フランスの陶器販売をしている業者のひとり息子として生まれました。
19歳でドイツに留学しデザインの勉強をしています。
帰国後は、実家でデザイナーとして働き、31歳になると家業を引継ぎます。
ガレは、芸術家のように材料選びから制作までをひとりで行わず、企画と指示を出したら実際の制作は職人がおこなっていました。
32歳の時には第3回パリ万国博覧会で作品が注目されます。
その後も、金賞やグランプリを獲得し知名度を上げていきます。
ガレは、知名度が十分にあがったころから、作品の中に文章を入れるようになりました。
これは「もの言うガラス」とよばれるシリーズになっています。
ガラス作品に有名な言葉を彫りこむことで作品のメッセージにメッセージ性を持たせました。
はじめのころは、物珍しさもあって好評だったのですが、徐々に「文章が邪魔だ」という声がでてきます。
それでもガレは強い信念をもって作品に文章を刻み続けたのです。
ガレは、時代の流れに応じた新しい作品を周囲から求められ続けていました。
そこで登場したものが黒いガラスです。
「キラキラとした透明感がガラスの魅力」という既成概念を壊し、わざと混合物を混ぜてガラスを黒色に染めました。
斬新な作品は、批判してきた人々だけでなく、多くの人々を感動させました。
「悲しみの花瓶」と名付けられた黒いガラスは、ガラスを道具の材料から芸術品になり得ることを証明したのです。
エミール・ガレは58歳でこの世を去ります。
晩年に近い作品は、溶けたガラスをそのまま生かすような力強さを感じます。
初期の繊細な作品と同じ人が作ったとは考えらない作品です。
ガレの芯の強さとガラスに対する強い思いが晩年の作品にはあらわれています。
知っておきたい、エミール・ガレの代表作品
有名過ぎるランプ「ひとよ茸」
エミール・ガレは、きのこのランプをいくつか制作しています。
中でも有名なランプが「ひとよ茸」です。
「ひとよ茸」は、ガレがこの世を去る数年前に作られた作品です。
きのこは、寿命をまっとうして倒れた木から生まれます。
「命の生まれ変わり」や「命の素晴らしさ」を、きのこを象徴にして作られたと考えられています。
「ひとよ茸」は、名前の通り一晩で枯れてしまうきのこです。
生命のはかなさと美しさを見事に表現した作品でしょう。
水墨画や浮世絵に通ずる「蜻蛉文扁瓶」
エミール・ガレは、黒いガラスを使って作品を作っています。
「蜻蛉文扁瓶」は43歳ごろに作られた黒いガラスの作品です。
瓶の上からまさかさまに落ちる蜻蛉が描かれています。
「きれいなガラス」とは正反対のおどろおどろしい作品です。
瓶のうしろには「私はひとり。ひとりぼっちでいたい」と彫られています。
ガレが黒色に興味を持ったきっかけは水墨画でした。
水墨画は、黒一色で描かれる芸術です。
目の前で水墨画を描く瞬間を目にしたエミール・ガレは、黒色の奥深さに気がつきました。
生活で使うエミール・ガレの芸術「家具」
エミール・ガレは、家具も制作しています。アール・ヌーボーらしい曲線を多用したデザインには、植物や昆虫をモチーフにした装飾が施されています。
中でも56歳ごろに制作した食器戸棚には歌川広重の浮世絵の影響を受けた構図が使われています。
浮世絵が印象派の画家たちに影響を与えたことは有名な話ですが、エミール・ガレの作品にも浮世絵は大きな影響を与えています。
まとめ
エミール・ガレが活躍していたころ、クリスタルガラスで有名なバカラもパリ万国博覧会に作品を出品しています。
ガレが、ガラスと家具部門でグランプリに輝いた1900年第5回パリ万国博覧会にもバカラは出品をしています。
マハラジャテーブル「海とボート」という作品です。
作者はシャルル・ヴィタル=コルニュでガラス以外にも大理石や青銅を使った作品を得意としていました。
ガラスのキラキラとした輝きと透明感を最大限に引き出した作品です。