今は「デザインをする道具」といえばパソコンの時代です。
しかし、デザインをする道具の中には、今も描く楽しさを教えてくれるスゴイ道具があります。
今回は、今では出番が減りつつあるけれど「やっぱり使えるデザインの道具」を3つ紹介します。
やっぱり使えるデザインの道具3選
1. 絵の具で直線がひけるデザイン道具!からす口
今はパソコンのマウスを動かせば、色がついた線を簡単にひくことができます。
しかし手描きでデザインをするときには絵の具を使います。
絵筆を使って太さが均等な直線を描くことは不可能に近いでしょう。
そこで使う道具が「からす口」です。
名前の通り先が鳥のくちばしのようになっています。
くちばしのように先がとがった金属の2枚の板の間に溶いた絵の具をはさみます。
はさまれた絵の具は毛細管現象で落ちることはありません。
絵の具をはさんだ状態で定規を使って線を引けば、均等な太さの直線をひくことができます。
線の太さは、二枚の板のすきまを調整することで変えられます。
2. 水だけでパリッとはれるデザイン道具!水張り画用紙
絵の具で絵を描くとき、木のパネルに画用紙を貼ると紙が折れずに描くことができます。
画用紙は、糊やセロハンテープで「貼る」のではありません。
画用紙の裏に水をぬるだけでパネルにピシッとはることができます。
これを「水張り」といいます。
水張りは、水張り画用紙という紙の裏に水刷毛という刷毛を使って水をぬります。
画用紙が水を含み、繊維が伸びたらパネルにピシッとはりつけるのです。
周囲を水張りテープという切手のように水で溶ける糊がついているテープで固定したら乾かします。
画用紙が乾燥してくると紙が縮み、パネル面にそってパリッとはりつくのです。
まるで科学の実験のようなからくりですが、想像以上にパネルと画用紙が密着します。
絵が仕上がったら、周囲にカッターで切り込みを入れたパネルから作品を切り離します。
3. 水平垂直がサッとひけるデザイン道具!方眼入り三角定規
デザインは水平垂直を意識して線を引く機会がたくさんあります。
そんなときに便利な定規が方眼入りの三角定規です。
三角定規の全面に5mm方眼が描かれています。この道具は、実際に使ってみると驚くほど便利です。
例えば、1cmごとに平行線をひくときには、方眼2個分の方眼の線にあわせるだけで平行線をひくことができます。
デザインは、平面のデザインもあれば立体のデザインもあります。
立体のデザインをするときには、展開図を描くことも多く、一度に数か所の平行と垂直をはかることができる方眼入り三角定規はとても重宝します。
パソコンを使えば水平垂直の線は簡単にひくことができます。
たくさんの線がどのような関係で構成されているのかを考えなくても、なんとなく線を「書いて」いればバランスのいい線がひけるかもしれません。
方眼入り三角定規で線をひくときには、すべての線との関係や位置を頭の中で整理してデザインを考えなければなりません。
パソコンは「感覚」で作品を作ることができますが、方眼入り三角定規はひとつひとつの線が引かれた意味を理解し、構成しながら作品を作っていくことになります。
どちらにもメリットとデメリットがあるでしょう。
パソコンの時代だからこそ実感できる道具のよさ
現在では、紹介したデザイン道具で行う仕事のほとんどがパソコンでできるようになりました。
実際に使っている人は美大受験をする学生くらいかもしれません。
しかし、からす口で線をひくときの緊張感、水張り画用紙を買うときのワクワク感はパソコンでは味わえないのではないでしょうか。
画用紙の水張りは1回勝負です。水を何度もぬってしまった画用紙は繊維が伸びきってしまうため使い物になりません。
さらに、水張りに失敗したときには画用紙にシワが入ってしまい、作品の見た目に影響を与えてしまいます。
上手に水張りできたときには「いい作品が描けそう」というやる気がわいてきます。
パソコンは、新しいファイルを開けて間違えたら1クリックでやり直しが可能です。
パソコンのデザインソフトの普及によって、誰でも手軽にデザインができるようになりました。
今から20年前は、からす口を上手に使いこなせるようにならなければ、きれいな作品を作ることが難しい時代でした。
しかし、パソコンで手軽にデザインができるようになったことによって、1本の線の重さがとても軽くなっているのではないでしょうか。
からす口で線をひいていた時代は、一度線を引いてしまえば簡単に消すことはできませんでした。
そのため「線を引くべきか。線があったほうがいいデザインになるのか」で悩み、悩みぬいてから線をひいたものです。
水張り画用紙も「いい作品になるように」と思いながら水刷毛で水をぬっていました。
今は、1クリックできれいな紙が何枚でも画面に出てきます。
おわりに
パソコンはとても便利です。速く作品を作ることも可能になりました。
しかし、作品に対する思いや向き合い方まで簡単に速く済ますようにはなりたくないものです。
たまには今は使われなくなりつつある道具を使ってみることも「作る楽しさ」を思い出すいい機会になるのではないでしょうか。