今回は、ひとつの作品ではなく「作風が似ている作品」に注目して違いはどこにあるのかお話しします。
たくさんの作品をみていると、中には「この人とこの人の作品は似ている」と感じることがあります。
作品が似てくる原因はどこにあるのでしょうか?
アンディ・ウォーホルとロイ・リキテンスタイン
ウォーホルとリキテンスタインは、2人ともポップアートを代表する作家です。
ポップアートとは、ゴッホやムンクのように実際にある風景や自分の頭の中をゼロから描くのではなく、新聞や雑誌やマンガのように誰かが制作したものをモチーフにした作品をいいます。
ウォーホルは、1928年にアメリカで生まれました。
カーネギー工科大学で広告美術を学びました。
33歳で制作した「キャンベルスープ」をシルクスクリーンで制作しました。
その後は、報道写真や有名スターの写真をモチーフにしてアメリカの大量消費など「暗い部分」を訴える作品を発表しました。
映画などポップアート以外のジャンルにも幅広く手を広げた作家です。
リキテンスタインは、1923年にアメリカで生まれました。
生まれた時期も活躍した時期もウォーホルとリキテンスタインは似ています。
オハイオ州立大学で美術を学び、卒業後も大学で講師をしながら生計をたてていました。
ポップアートに転向したきっかけは、マンガの影響力の大きさに気がついたことでした。
以降は、大量生産されるマンガや有名絵画をモチーフにして作品を制作しています。
ウォーホルとリキテンスタインの共通点は、赤や黒などハッキリした原色を使い、大量生産されるものをモチーフにしているということです。
できあがった作品は似ていますが、決定的な違いがあります。
それは「表現の仕方」です。
ウォーホルは、シルクスクリーンでひとつの作品を200枚や300枚と大量に制作した一方、リキテンスタインは手描きです。
一見、印刷物のようにみえる小さなドットも手で一つ一つ色を塗っています。
リキテンスタインは大量生産されるモチーフを手書きで表現することで大量生産品をたったひとつの絵画に変えたのです。
ウォーホルは、大量生産品を大量生産することで人々に自分の主張を伝えたかったのかもしれません。
ジャン=ミシェル・バスキアとバンクシー
バスキアが画家とし活動した期間はわずか10年ほどでした。
27年という短い生涯のなかで残した作品は数千点以上といわれています。
バスキアは、グラフィティアートと呼ばれる壁画をメインに制作しました。
グラフィティアートは、日本では「落書き」と呼ばれることもありますが、海外では芸術と呼べるレベルのグラフィティアートを描くペインターが存在しています。
バスキアの名前が知れ渡ったきっかけは、ZOZO創業者の前澤友作氏が約123億円でバスキアの作品を購入したことです。
一度見れば強く印象に残る作品からは、人種が抱える問題や孤独を感じます。
アンディ・ウォーホルと親交があり、ウォーホルを失ったことが27歳でこの世を去る一因となったと考える人もいます。
バンクシーは、さまざまな情報がありますが、正式にはどこの誰なのか公表されていません。
バンクシーが1人なのかチームなのかもわかりません。
バンクシーの特徴は、人目につかないように作品を仕上げることです。
短時間で描くためにステンシルという型紙を使って描きます。
描かれる作品には世界や社会に対してのメッセージが込められています。
バンクシーが有名になると、描かれた作品はすぐに切り取られ「作品」として保管されるようになりました。
バンクシーが一躍有名になったきっかけは、やはり「赤い風船に手を伸ばす少女」のシュレッダーでしょう。
オークションで落札されたとたんに額に取り付けられていたシュレッダーが作動しました。
結局、作品は「愛はゴミ箱の中に」に改題され、さらに有名になりました。
バスキアとバンクシーの違いは「伝え方」です。バスキアは、自分の思いや伝えたいことをストレートに伝えます。
さまざまな要素を組み合わせてはいますが、どれもストレートに伝えています。
一方のバンクシーはユーモアを交えた「とんち」の入った伝え方です。
例えば2003年に制作された「花束を投げる男」は、火炎瓶を投げる青年の手に花束を持たせています。
平和への願いが込められた作品ですが、戦いの現場や悲しみをストレートに描くのではなく「花束を投げる」という間接的な伝え方をしています。
2017年にバンクシーは、バスキアの作品と自分の作品を描いた作品を発表しています。
作品には、バスキアの象徴である王冠も描かれています。
バンクシーとバスキアは、活躍した時期や伝え方に違いはありますが「世界の状況に対して訴える作家」という共通点があり、バンクシーのバスキアに対する思いが伝わる作品です。
おわりに
作風の似ている作品には共通点がありました。
似ている部分はあっても、表現する人が変わればそれぞれの作品には違う魅力が出てきます。
ウォーホルには、色彩とデザインの美しさ、リキテンスタインには大量生産と手描きのギャップの面白さ、バスキアにはパワー、バンクシーにはユーモアがあります。
同じものを同じテーマで描いても、表現する人によって全く違った作品ができあがることに美術の面白さがあるのではないでしょうか。