有名な絵の中にもパッと見では、わからないようなメッセージが書かれているものがあります。
その作品の画家は果たしてどのような思いでそのメッセージを後世にたくしたのでしょうか。
この記事では、絵画を通して訴えようとしている画家のメッセージをいくつかご紹介いたします。
メッセージとして自分の名を描いた絵 「聖ヨハネの斬首」カラヴァッジョ
カラヴァッジョは、イタリアの画家です。
ペストが流行し、不安定な時代に生まれたカラヴァッジョは、理想の世界よりも現実を見据えた画家といえるでしょう。
そのため、宗教画を描くときでもそれまでの空想の世界のような絵ではなく、現実世界の中にキリストや天使を描きました。
従来のやり方を真逆にひっくり返すような性格は、ある事件を引き起こします。
ケンカ相手を殺してしまうのです。
カラヴァッジョは死刑判決を受けますが逃亡します。
逃亡した先で描いた作品が「聖ヨハネの斬首」です。
この作品は、王の命令により斬首されるヨハネを描いています。
この作品には、死刑の判決を受けたカラヴァッジョが「自分と重ねあわせて描いたのでは」と思うメッセージがかくされています。
斬首されているヨハネの血の下に「fmichelA」と書いてあります。
fは、騎士の称号を意味しています。
michelAは、カラヴァッジョのファーストネームMichelangeloの一部です。
つまり自分の名前を書いています。
斬首されている人の血で自分の名前を書く意味とは一体何だったのでしょうか。
死刑の判決を恐れて逃げてはきたけれど、心の中には贖罪の気持ちがあったのではないでしょうか。
カラヴァッジョは、教皇の恩赦をもらうためにローマにむかいますが、旅の途中で病気になり39歳でこの世を去ります。
証拠として書いたメッセージ絵「黒衣のアルバ公爵夫人」ゴヤ
アルバ公爵夫人は、スペインの名門貴族です。
社交界の有名人だったアルバ公爵夫人とゴヤは愛し合う仲になります。
「公爵夫人」とは、公爵の奥様なのでゴヤとは不倫関係になるのです。
本当ならば、だれにも知られないように隠れて交際するべき関係ですが、ゴヤは「黒衣のアルバ公爵夫人」の中に親密な関係である証拠とも言うべきメッセージを書いています。
モデルとなっているアルバ公爵夫人は、指輪をしています。
その指輪には「ゴヤ」と「アルバ」の2人の名前が刻まれているのです。
さらに、絵の中のアルバ公爵夫人は右手で地面を指さしています。
その指の先には「ゴヤだけ」というメッセージが書かれているのです。
だれがみても「不倫の証拠」にしかみえないメッセージを作品に残してしまうとは、いろいろな意味でゴヤの強さがよくあらわれている作品です。
アルバ公爵夫人は40歳という若さで突然この世を去ります。
手紙に文字メッセージのある絵「マラーの死」ルイ・ダヴィッド
マラーとは、庶民に支持されたフランスの指導者です。
当時の議会は富裕層が支持するジロンド派と庶民が支持するジャコバン派に分かれていました。
マラーは、ジャコバン派の指導者だったため、ジロンド派とは対立していました。
ある日、マラーは庶民のひとりコルデーから「相談がある」と言われ面会を求められます。
マラーは、持病の皮膚病を治療するためにしばしば入浴をしていました。
浴槽にひたった状態で面会を受けている最中にコルデーによって刺殺されます。
実は、コルデーはマラーと対立しているジロンド派の熱狂的な支持者だったのです。
「マラーの死」を描いたダヴィッドは画家でもあり、マラーと同じジャコバン派の議員でもありました。
仲間の死を絵に描いたのです。ダヴィッドは、マラーの人柄を庶民にアピールするために作品の中にメッセージを書いています。
マラーは、コルデーが面会を依頼した手紙を持っています。
その手紙には、コルデーが嘘の口実を作って面会を依頼している内容が書かれています。
この手紙は、実物そのものではなく、ダヴィッドがコルデーの残忍さをアピールするために加筆しています。
ダヴィッドは「マラーの死」以外にも加筆をした作品があります。
「皇帝ナポレオン一世と皇妃ジョセフィーヌの載冠」では、いないはずのナポレオンの母を加筆しています。
ナポレオンの母は、この結婚に反対していたため載冠式には出席しませんでした。
しかしダヴィッドは「母にも祝福された」という絵にするために加筆したのです。
言葉以上のメッセージを残した絵「最後の審判」ミケランジェロ
「最後の審判」にはミケランジェロ本人が描かれています。
画面中央に描かれている人間の皮がミケランジェロです。
ミケランジェロは「自分の芸術にお金を出してくれるメディチ家」を選ぶか「対抗している市民や仲間」を選ぶか決めなければならない状況になります。
ミケランジェロは悩みますが仲間よりも「自分の芸術」を続けるためにメディチ家を選ぶのです。ミケランジェロは、作品制作を続けながら、ずっと罪の意識にさいなまれます。
その気持ちはミケランジェロの「年をとったヘビが古い皮を脱ぐように、私もせまい小道を通り抜けられるだろうか」という言葉によくあらわれています。
自分を生きたまま皮をはがれた人間として描くほど苦しんでいたのでしょう。
言葉以上のメッセージを感じる作品です。
おわりに
絵の中には画家がたくしたメッセージが隠されていることがあります。
メッセージに気がつくことで、より深く作品を理解することができるでしょう。