パウル・クレーの作品は、淡い色合いで子どものようなのびのびとしたイメージです。
クレーは、多くの有名な芸術家とは一味違った人生を送っています。
その影響が、クレー独特の作風となっているのかもしれません。
この記事では、パウル・クレーの作品が生まれた背景を含めて、クレーのすべてをわかりやすく解説します。
パウル・クレーの生涯
パウル クレーは、1879年にスイスで生まれました。
音楽一家だったため、クレーは幼い頃からバイオリンを習い、10代でベルリン市管弦楽団の非常勤団員になります。
クレーは、音楽と同じくらい絵にも興味を持っていました。
風景画だけでなく、高校生のときには教科書に教師や友人をモチーフとした落書きをしています。
教師からは、厳しい目で見られるような生徒だったのかもしれません。
しかし、絵に対する姿勢は真面目でした。
絵の技術をあげるため、模写を繰り返します。
高校卒業後は、ドイツの画塾に入学します。
しかし、画塾で行われていた一辺倒な教育方法が合わず、すぐに退学するのです。
そして26歳で結婚します。
とはいっても、クレーは稼ぎがほとんどなかったため、妻が働き生計をたてていました。
翌年には、長男が誕生しますがクレーが子育てや家事を担当し、妻が働く生活は変わりませんでした。
クレーは、子育てをしながら製作し、作品の売り込みもしましたが、採用されることはなく、チュニジア旅行にでかけます。
この旅行がクレーの作風を一変させるのです。
スイスとは全く違った景色や太陽の光は、以降のクレーの作品の特徴である「色彩による表現」を生み出します。
チュニジア旅行を終えて間もなく第一次世界大戦が勃発します。
クレーは、戦争でたくさんの友人を失いました。
クレーは、戦時中に注目される画家となっていました。
そのため、多くの画家仲間が戦地で命を落とす中で、クレーは飛行訓練学校の会計係に派遣され、働きながら制作活動を続けることができたのです。
1919年、敗戦直後に建てられた学校「バウハウス」でクレーは教師として招かれます。
ただ、バウハウスはわずか5年で閉校に追い込まれます。
クレーは、デュッセルドルフ(ドイツ)の美術学校で教師として働きますが、ナチスの迫害から逃れるために、53歳でスイスに亡命します。
60歳でこの世を去るまで、クレーは妻とスイスで暮らします。
晩年は病との戦いでしたが、ピカソやカンディンスキーが自宅を訪れ、最期まで絵を描き続けていたといわれています。
パウル・クレーの描き方「ポリフォニー絵画」とは
パウル・クレーの作品は、とても抽象的ですが音楽のようなリズムを感じます。
直線や円が規則正しく構成され、まるで楽譜のような作品です。
これは「ポリフォニー絵画」と呼ばれています。ポリフォニーとは「たくさんの音が同時に響く」という意味の音楽用語です。
クレーは、幼い頃から音楽に親しんでいました。
音楽は、メロディとリズムで構成されていますが、音を平面の絵画に表現するためにクレーが生み出した方法が「ポリフォニー絵画」なのです。
作品「赤のフーガ」は、抽象的な形のモチーフが右に微妙に形を変えながら移動しているような作品です。
見方によっては、移動しているだけでなく、追いかけられて逃げているようにも見えます。
フーガは、音楽のひとつであり、ひとつの曲の中に同じメロディが繰り返されます。
つまり「赤のフーガ」は、フーガの特徴を絵にした作品です。
見る人は、無意識のうちに左から右にモチーフが流れているように感じ、音楽を聞くように絵の中で流れを感じます。
パウル・クレーの作品に登場する文字と矢印の意味
文字や記号が絵画作品の中に描かれているものは少ないです。
なぜならば、文字や記号は意味を限定する可能性があり、見る人の想像力を制限してしまう可能性があるからです。
しかし、パウル・クレーは作品の中に文字や記号を描いています。
作品「E」は、1918年に描かれた作品です。
画面の中央には大きなEが描かれ、となりに小さな点が打たれています。
点は、単語を省略していることを示すため、Eの後ろには何かしらアルファベットが続くことを意味しています。
Eから始まる単語はたくさんあります。
Eの周囲には、建物のような絵が描かれていますが、すべてEが上向きになるように配置されています。
Eをどのように解釈するのかによって見方がかわるのです。
矢印も使われています。
クレーが描く矢印は図形のようなものもあれば不穏な雰囲気を感じるものもあります。
クレーの矢印は、見る人に作品を鑑賞するヒントを与えているのかもしれません。
文字や矢印を作品に描きこむということも音楽の知識を持っていたクレーだからこその表現方法ではないでしょうか。
文字や矢印の意味は、抽象的で解釈が難しいクレーの作品を鑑賞するクレーからのヒントなのかもしれません。
おわりに
パウル・クレーの作品は、明るくリズミカルなものがたくさんあります。
しかし作品「ドゥルカマラ島」は、一見ピンクや水色のかわいらしい雰囲気の作品ですが、描かれている内容を理解すると不気味な絵であることがわかります。
クレーの作品は、鑑賞するというよりも「読み取る」という楽しさが秘められています。