この記事では、漆器の魅力と、漆を極めた人「角偉三郎」について紹介いたします。
芸術にはみる芸術と使う芸術があります。
漆器は使う芸術です。
日常生活の中に、ぜひ芸術を取り入れてみてはいかがでしょうか。
漆は英語でJAPAN!漆の基礎知識
漆とは
漆はウルシ科の植物です。漆器に使われる液体は、漆の木の樹液です。
樹液は漆の木にみぞをほってかき出します。
1年ほどかけて木全体にみぞが入ったら、木を切り倒し、新たな木を育てるのです。
木から取ったばかりの樹液は漆器のような黒色や朱色ではありません。
黒色にするためには、樹液に酸化鉄を混ぜて黒色にします。
鉄と漆に含まれるウルシオールが反応して黒色よりも黒い漆黒になるのです。
朱色にはベンガラなどが混ぜられています。
「漆は乾燥することで固まる」と思っている人が多いのですが、漆は湿気で固まります。
そのため、漆を塗った漆器などは「むろ」と呼ばれる湿度の高い空間に入れるのです。
漆の用途は幅広く、接着剤としても使われています。
割れてしまった焼き物を接着する金継ぎにも接着剤として漆が使われています。
また、漆を絵の具のようにして使う漆絵もあります。
絵の具とは一味違う華やかさが特徴です。
漆は酸やアルカリにも強く、長い年月をかけてどんどん固くなります。
きちんと保管されたものは100年以上たっても劣化しないといわれています。
日本の塗料
漆は、英語で「Japanese lacquer」です。直訳すれば「日本の塗料」です。
しかし、磁器のボーンチャイナが「China」といわれるように漆器も「JAPAN」といわれることがあります。
磁器のボーンチャイナは中国が語源です。
磁器の発祥地である中国が磁器の表記に使われています。
同じように漆は日本を象徴する塗料といえるでしょう。
そのため、今でも漆のことをJAPANと呼ぶことがあります。
知っておきたい日本の漆器
日本ではさまざまなところで漆器が作られています。
作られている地方ごとに漆器には特徴があるのです。
日本を代表する漆器の種類をいくつか紹介しましょう。
輪島塗|日本の漆器
輪島塗は、石川県輪島で作られている漆器です。
伝統的工芸品に指定され、天然の漆を何年もかけて何層も塗り重ねます。
その工程は124にも及び、数ある漆器の中でも「一番強い漆器」といわれています。
石川県合鹿地方で作られている漆器は「合鹿椀(ごうろくわん)」です。
上塗り前に生漆と米糊を混ぜた接着剤で布を貼りつけます。
これを「布着せ」といいます。布着せは、椀のふちと底などに施され強度を出しています。
合鹿椀の特徴は形です。
床に椀を置いた状態でも食事ができるように高台が高くなっています。
津軽塗|日本の漆器
津軽塗は、青森県の伝統的工芸品です。
「研ぎ出し変わり塗り」という漆を塗っては研ぎ、塗っては研ぐ手間と時間がかかる塗り方です。
何度も塗り重ねることで「堅牢」な漆器ができあがります。
津軽塗には「唐塗」「七々子塗」「紋紗塗」「錦塗」の4つの柄があります。
一番目に触れる機会が多い柄は唐塗でしょう。
七々子塗は、菜の花の種を使って小さな丸状の模様をつけます。
川連漆器|日本の漆器
川連漆器は平成8年に伝統的工芸品になりました。
秋田県の川連地方で作られる漆器です。
木地には奥羽山脈の栃やブナや桂が使われています。
木地を1か月ほどかけて煙で低温乾燥させることで木地を強くします。
さらに煙でいぶすことで防虫効果も期待できるのです。
漆を極めた人「角偉三郎」
角偉三郎は1940年に石川県輪島で生まれました。
父は輪島塗の下地を作る職人で母は蒔絵を描く職人でした。
幼いときから漆に接する機会が多く、自身も沈金師に弟子入りをします。
アメリカの現代美術に影響を受け、漆絵を描いていた時期もあります。
日展に多くの作品を出展し1978年には日展特選を受賞しています。
角偉三郎が描いた漆絵は漆の華やかさと豪快さが見事に相まっています。
漆絵というと椀に描かれているような蒔絵をイメージします。
角偉三郎も蒔絵のような漆絵を描いていたこともありますが、やはり角偉三郎らしさを感じる作品は漆を大胆にのせた迫力ある作品です。
黒地に大胆に描かれた「花」は国外の人々にも愛されています。
しかし、角偉三郎は40歳ごろから一切の公募展から手を引いて漆器に取り組みます。
それまでの伝統的なやり方とは違い椀を手で持ち、筆ではなく指やワラを使って漆を塗りました。
角偉三郎の作品は「漆を塗った」というよりも「漆で描いた」という作品が多く、まさに漆の魅力を最大限に前面に押し出した作品です。
角偉三郎は「漆とはなにか」「木とはなにか」そして「空気が必要とするかたち」を追求していました。
2005年に65歳という若さでこの世を去りますが、作品の評価はますます高くなっています。
おわりに
今回は、漆器の魅力と、漆を極めた人「角偉三郎」について紹介いたしました。
「漆器は高価だから飾るだけで使わない」という人がいますが、漆器は使うことで色つやがよくなります。
使う芸術といわれる漆器の価値は、生活の中で使われることでも高まっていくのではないでしょうか。