涼を感じる水墨画といったら、どんな作品をイメージするでしょうか?
水墨画には、視覚から入る水や風の雰囲気、墨色ならではの空気感を醸し出している有名作品が多くあります。
暑い季節は、色数が多い重厚感のある絵画よりは、陰影や間で空気感を伝える水墨画の方が「涼」を感じることができるのではないでしょうか。
今回はその中から目で涼を感じさせる水墨画の有名作品を4点紹介いたします。
風が通っている?「松林図屏風」長谷川等伯
長谷川等伯は、安土桃山時代から江戸時代のはじめに活躍した人です。
きらびやかな文化が栄えた時代に黒白で表現する水墨画を描いていました。
千利休の「わび」に影響を受けていたといわれています。
水墨画の中に空白を多く取ることで有名な画家で、さらに画の背景に鳥や花が描かれていません。
松林といっても松が生い茂っているわけでもなく、屏風の端に数本の松が描かれているだけです。
しかし、この作品は遠くからみると、端に描かれた松と松の間の空間に空気を感じます。
霧が立ち込めた松林のように涼しく冷たい空気が流れている気がするのです。
長谷川等伯は、薄い墨でか弱く描いた線と濃い墨で強く描いた線を使い分けることで遠近感を出しています。
濃く描かれた線は筆ではなく「わら」を使っています。
「松林図屏風」の薄く描かれた松は、長谷川等伯の息子で濃く描かれた松は長谷川等伯自身を表現しているといわれています。
長谷川等伯の息子は、若くしてこの世を去っています。
長谷川等伯は、自分を濃い松に例えて、しっかりと強く生きようと思っていたのかもしれません。
シンプルイズザベスト「○△□」仙厓
水墨画にはみえない水墨画といえば「○△□」が有名です。
風景画でも静物画でもなく画面には、丸と三角と四角が並べてあるだけです。
この作品は、仙厓が描きました。
仙厓の職業は、画家ではなく僧侶です。
僧侶は仕事で「お悩み相談」をします。
ふつうならば悩みを聞いた僧侶は、説法をして悩みに答えます。
しかし、仙厓は言葉による説法ではなく水墨画を描いて渡していました。
「○△□」もその中の一枚です。
「○△□」が、どのような悩みに対しての答えだったのかはわかりませんが、意味は「宇宙」です。
「すべてのものは丸と三角と四角でできている」という意味です。
「すべては基本が大切」や「ものごとはシンプルに考えたほうがいい」ということを伝えたかったのかもしれません。
シンプルなだけに、深く考えることができる作品です。
「○△□」は水墨画ですが、最近はシンプルながらも丸と三角と四角の配置がオシャレということでインテリアや日用品のモチーフに使われています。
四角い額にこだわらず、丸い額にいれてもモダンです。
作品暑さを笑い飛ばす「雨龍図」伊藤若冲
水墨画の中に鶏や花を緻密に描くことで有名な画家といえば伊藤若冲です。
画面に対して図が多く、量というよりも豪華さが強く密度の高い作品がたくさんあります。
水墨画になると、まるで別人が描いたかのように「間」がある作品になるのです。
「葡萄小禽図」は、建物内の壁に葡萄が描いてある作品です。
壁をつたうように蔓が描いてありますが、密度は低く、むしろ空間の方がたくさんあります。
「雨龍図」も縦長の紙に龍だけが描かれたシンプルな作品です。
しかし、龍の表情はとてもユニークです。口を大きく開けて目は上を向き、けして「まじめな龍」にはみえません。
伊藤若冲らしさを感じない作品にみえますが、実は「うろこ」に伊藤若冲の技が光っています。
伊藤若冲は、画箋紙を使って絵を描いていました。
画箋紙は、墨をおくと隣あう墨と墨の間が白くなります。
伊藤若冲は、この紙の性質を利用して「うろこ」のような細かい部分を描いていました。
「雨龍図」は、とてもシンプルでおもわず笑ってしまう作品ですが、龍の体の描き方は「さすが伊藤若冲」と思わせます。
伊藤若冲の作品に「蔬菜図押絵貼屏風」があります。
ナスやかぼちゃ、しいたけにレンコンなどの野菜です。
おもしろいところは、トリミングの仕方です。
画面にきれいに野菜の姿がおさまっているのではなく、しいたけは左三分の一がカットされています。
その野菜の個性がわかる部分だけを切り取った「デザインされた水墨画」です。
季節に応じて「野菜」を変えれば絵で季節を感じることができます。
まとめ
水墨画の有名作品の中でも涼を感じる夏の季節の作品を今回は紹介しました。
お茶室の掛け軸のように気軽に水墨画で季節を感じてみるのも粋です。
季節に応じて服をかえるように絵も衣替えしてみると楽しいでしょう。
風鈴は音で風を感じます。
今年は目で涼を感じてみてはいかがでしょうか。