この記事では、絵の具の代表的なものである油彩と水彩、そして卵を使ったテンペラなど、絵の具の種類について詳しく解説します。
絵を描くとき、絵の具の選び方によってできあがる作品の雰囲気は変わります。
絵の具は、色を決める顔料と接着剤の役割をする展色剤を組み合わせたものです。
絵の具による特徴を知ることで、より自分の表現に適した画材を選ぶことができるでしょう。
自分好みの絵の具で描ける「油彩」
油彩とは顔料と乾性油でできた絵の具「油絵の具」で描かれた絵です。
乾性油とは、酸素と結びつくことで化学変化して固まる脂肪酸を多く含んだ油です。
酸素と結びついて固まった絵の具は、簡単に溶けることはありません。
そのため、一度塗った絵の具の上から重ね塗りをするときでも、下の絵の具が溶けだすことなく色を重ねることができます。
ただ、酸素と結びついて固まるまでには長い時間が必要です。
表面が乾くまでに3日間程度、完全に内部まで固まるまでには100年以上ともいわれています。
油彩の代表的な画家といえば、ゴッホやセザンヌです。
この2人の描き方には違った特徴があります。
ゴッホは絵の具を立体的に盛り上げて描き、セザンヌはゴッホよりも薄く絵の具を塗り平面に仕上げています。
ゴッホのように立体的に仕上げるためには、顔料と乾性油だけではなく、ロウや分散剤を混ぜる必要があります。
顔料と乾性油だけではサラリとしているため、絵の具を盛り上げることができないのです。
分散剤は、乾性油と顔料を均一に混ぜる助けとなります。
現在の油絵の具には、分散剤以外にも乾燥剤やカビを防ぐ防かび剤も入っています。
油彩は、チューブに入った絵の具そのままで描くのではなく、さまざまな油で絵の具を溶いて好みの固さにします。
油彩は、顔料や油の組み合わせによって個性を発揮できる特徴があります。
計画して使う絵の具で描く「水彩」
水彩画で使う水彩絵の具には、透明水彩と不透明水彩があります。
不透明な絵の具はガッシュとも呼ばれています。
透明水彩と不透明水彩の絵の具の違いは成分の割合です。
透明水彩は、顔料の割合を低くすることで透明感を出します。
不透明水彩は顔料を多めに入れて、増粘剤を加えることで不透明感を出しています。
透明水彩は、塗ったときに下地が透けてみえますが、不透明水彩は下地が透けない特徴があります。
そのため、透明水彩で白色を表現するときには、あえて下地の白色をそのまま生かします。
水彩と油彩の大きな違いは、水彩は油彩のように塗り重ねることができないということでしょう。
水彩絵の具は名前の通り水に溶ける絵の具です。
塗り重ねてしまうと、下に塗った絵の具が溶けだしてしまい、色が濁ってしまいます。
そのため、水彩は計画的に色を塗り、塗り直しがないようにする必要があります。
卵を使った絵の具で描く「テンペラ」
テンペラの歴史は古く、油絵の具が登場するまでの作品の多くはテンペラで描かれていました。
テンペラは、顔料を卵で溶いて作る絵の具です。
顔料の割合が多いため、仕上がりは不透明になります。
テンペラは、一度塗って乾いてしまってもペインティングナイフで剥がして塗りなおすことができます。
「簡単に剥がれる」ということは「塗り直しがしやすい」というメリットでもありますが、完成した作品も温度や湿度管理をしなければ「剥がれたりひびが入ったりしてしまう」というデメリットにもなる特徴です。
テンペラは、キャンバスが登場する前に使われていた技法のため、支持体に木を使っていました。
木は安くて入手しやすい材料ですが、経年で反り返ったりひび割れたりするため油絵の具の登場と共にテンペラは影をひそめていきます。
テンペラというとかなり昔の画法というイメージがありますが、「ムンクの叫び」もテンペラとそのほかの方法を用いて描かれた「混合技法」で描かれています。
テンペラは、乾きが速く輪郭をハッキリとさせた表現にむいています。
一方の油彩はやわらかな表現にむいています。
「混合技法」は、お互いの長所をいかした表現ができる技法です。
テンペラと似た言葉にフレスコもあります。
フレスコは、漆喰に描く方法です。漆喰は、消石灰と水と砂を混ぜて作ります。
漆喰が乾かないうちに上から顔料で描いたものがアフレスコです。
一方、漆喰が乾いてからテンペラなどを使って描かれたものがフレスコ・セッコです。アフレスコの方が乾燥するときに漆喰と顔料が一体化し、長持ちします。
ただ、アフレスコは漆喰が乾くまでに絵を完成させなければならないデメリットもあるのです。
おわりに
油彩と水彩、そしてテンペラの絵の具について紹介しました。
絵を描くための画材は、紹介したもの以外にもクレヨンや色鉛筆などたくさんあります。
顔料については、表面的な色だけでなく科学的な視点でみてみても面白いです。
画材や顔料の知識を蓄えておくことは、表現の幅を広げるだけでなく、完成した作品を適切に保管するためにも必要なことでしょう。