青、それは空と海の象徴であり、同時に私たちの心を映し出す鏡でもあります。
「ブルーな気持ち」というフレーズにも見られるように、青色は感情の多様性を表現する力を持っています。
この記事では、「青い絵画」をテーマに、その魅力を余すことなく表現した「画家」3人をピックアップ。
彼らの作品を通じて、青色がいかに個々の「画家」の個性や人生観を反映し、独自の芸術世界を築いているかを探ります。
青い絵画の奥深さを感じることで、画家たちの表現の幅広さと青色の持つ無限の可能性を再発見しましょう。
きれいな宝石色!フェルメール
フェルメールはオランダの画家でとても有名ですが、画家として活動したのは22年ほどだったため、30点程度の作品しか残されていません。
残っている30点のうち約80%もの作品に使われている色がウルトラマリンブルーです。
フェルメールが使っていたウルトラマリンブルーはフェルメールブルーと呼ばれるくらいフェルメールの作品を象徴する青色になっています。
フェルメールの青色はラピスラズリを細かく砕いたものが原料です。
当時のラピスラズリはゴールドと同じ価値があり、まさに宝石を砕いて絵の具にしていました。
フェルメールが高価な絵の具をふんだんに使うことができたのは、妻の実家の財力のおかげです。
フェルメールの妻カタリーナはフェルメールと21歳の時に結婚し、たくさんの子どもを生みます。
フェルメールは生存中に売れっ子にはなれなかったため、カタリーナに財産を遺すことができませんでした。
そのため、実家とのつながりがなくなってからのカタリーナは最後までお金に苦労したのです。
「高級な絵の具を使えばだれが描いたって魅力的な絵になる」と思う人もいるかもしれません。
しかしフェルメールはフェルメールにしかできない技術でラピスラズリの青色を使っています。
フェルメールの絵の中には、みてすぐにわかる青色がありますが、実は白色にみえる部分にも同じ青色を使っています。
フェルメールは、青色がうつり込んでいる部分の下地に青色を使い、さらに白色や他の色を重ねることで光を表現しました。
フェルメールは青色を上手に使いこなすだけでなく、光の描き方にも定評がある画家です。
フェルメールの魅力ある光の表現の中にも実は青色の力が使われていました。
高価な絵の具にふさわしい腕をフェルメールは持っていたのではないでしょうか。
ただ残念なことは、フェルメールの青色や作品が高く評価されるようになったのは、フェルメールもカタリーナもいなくなってから100年以上もあとのことです。
心が重くなるけれど惹かれる青色!ゴッホ
ゴッホはさまざまな青色を作品に使っています。
ゴッホの作品の青色は、ゴッホの内面を映しているかのようにゴッホを取り巻く環境や心境とかち合っています。
例えば、ゴッホが一番幸せだったのではないかと思われるアルルの時代には明るい青色が使われています。
「アイリスのあるアルルの眺め」ではパステルブルーのような空が広がっています。
有名な「太陽と種まく人」では地面に青色が使われていますが、けして暗さは感じません。
しかし、ゴッホの絵の特徴にもなっている渦が登場すると青色は濃く暗く、画面に対して広い面積をしめるようになります。
空に使われる青色には紺色が増え、最期に描かれたといわれている「鴉の群れ飛ぶ麦畑」では黒に近い紺色や青色が上から押しつぶすようにキャンバスにのせられています。
ゴッホと同じように心が重くなるような青色を使っていた画家がピカソです。
ピカソには「青の時代」があります。
「青の時代」とは、全体が青色で暗いイメージの作品を多く描いていた時代です。
ピカソが青の時代に入ったきっかけは、友人との悲しい別れにあるといわれています。
ピカソが「青の時代」に描いた作品「海辺の母子像」にはゴッホの青色を思わせるような悲しさがあります。
ゴッホの青色にもピカソの青色にも底知れぬ悲しさがあります。
しかし、どちらの青色にも心の叫びが聞こえるような強さを感じる魅力があるのです。
つきぬけるさわやかな青色!東山魁夷
東山魁夷は日本の画家です。東山魁夷の使う青色は緑青から濃紺まで広い色幅があります。
千葉県市川市の東山魁夷記念館に展示されている絵の具をみれば、東山魁夷がどれほど青色にこだわったかわかるのではないでしょうか。
広い色幅を使いこなすことで、青色を空気のような水のような「青」に変えていきます。
東山魁夷の青色の魅力を一番感じる作品は「夕静寂」かもしれません。
夕静寂の大部分は青色で埋め尽くされています。
それにもかかわらず、微妙な濃淡によって山の奥深さだけでなく、気温や音や時間まで感じられる作品です。
日本画は、自然が作りだした天然石を砕いて作る岩絵の具が使われています。
東山魁夷は自然が作りだしたさまざまな青色を使いこなした画家です。
東山魁夷が微妙な青色を使いこなした理由は、とびぬけた画力だけでなく水墨画の影響もあるのでしょう。
東山魁夷は65歳ごろから水墨画も始めます。
濃淡だけで表現する水墨画を極めることで、晩年の作品には日本画の美しさと水墨画の奥深さの両方の魅力があふれています。
まとめ
青色の魅力を体現する画家、フェルメール、ゴッホ、東山魁夷。
彼らの作品は、青が持つ豊かな表現力と深い感情を見事に映し出しています。
フェルメールの繊細な光の表現、ゴッホの情熱的な筆遣い、東山魁夷の静謐な風景。
それぞれが青を通じて異なる世界を描き、見る者に強烈な印象を残します。
青色の絵画を通して、画家たちの内面と芸術への深い洞察を垣間見ることができるでしょう。