この記事では、知っているようで知らない言葉「芸術」「美術」「アート」の3つの言葉の違いについてお話しします。
例えば「現代美術」と「現代アート」とは何が違うのか。
「芸術作品」と「美術作品」とは何が違うのか。
美術の用語の中には、線引きがわかりにくいものが多くあります。
芸術とは
芸術の「芸」には、身につけた技や技術という意味があり、「術」には特別な技術や技術という意味があります。
似た言葉に「道」がありますが、道は実技的な意味よりも精神的なことにポイントがおかれている印象があります。
芸術とは「なにかを表現することでみる側の感性にうったえかけること」ではないでしょうか。
表現する方法はさまざまで、文字で表現すれば文芸(言語芸術)になり、音で表現すれば音楽(音響芸術)、芝居で表現すれば映画や舞台(総合芸術)、絵や彫刻作品で表現すれば美術(造形芸術)になります。
手段の範囲を選ばずに「みる側の感性にうったえることすべて」を芸術と表現しています。
最近は、さまざまな芸術分野をかけあわせた新しい表現も登場しています。
例えば、映像と音楽を組み合わせたメディア作品、プロジェクションマッピングのような空間演出と立体作品、そして最新のテクノロジーを使った作品もあります。
美術とは
美術の「美」には、文字通り美しいという意味があります。
また「立派」や「おいしい」という意味を持つこともあります。
芸術は「みる側の感性にうったえ、なにかを伝えるもの」でしたが、美術の「美」には「なにか」ではなく美しかったり、立派だったりと「前向きなイメージ」が含まれています。
つまり、芸術と美術の大きな違いは、芸術は前向きも後ろ向きもすべて含めてみる側の感性にうったえるものに対し、美術は芸術の中でも前向きや美しいというキーワードがプラスされた範囲になるのではないでしょうか。
美術と呼ばれる絵画の中には、ゴヤの作品のように暗かったり残虐なシーンが描かれていたりするものも多くあります。
それらの作品を「美」という文字が使われている美術の中に入れるべきか芸術として大きく考えるべきか悩むかもしれません。
みる側が、どう感じるかによって芸術と美術の境目は変わってくるのではないでしょうか。
アートとは
アートは、英語のARTであり辞書には芸術や美術と訳されています。
英語圏では、芸術と美術とアートの3つの言葉で区別するよりも、彫刻はsculpture、絵画はpaint、などより細かい言葉で分類される傾向があります。
とくに美術とアートを使い分けることは日本ならではの特徴でしょう。
アートに似た言葉に「アーティスト」があります。アーティストは、画家だけでなく作曲家や歌手、文芸作家や建築家も含めて使われることもあります。
最近では精肉店の看板に「肉のアーティスト」と描かれていることもあり、アーティストの使われる範囲はとても広くなっています。
つまり、アートもアーティストと同様に芸術や美術と比べると範囲がとても広い傾向があるのです。
アートという言葉が使われるようになったのは、割と最近です。
芸術や美術という言葉には
教科書で習うようなモナ・リザやゴッホのような正統派なイメージがあります。
しかしアートには、もっとハードルが低く、自由度が高いイメージがあるのかもしれません。
そのため「現代美術」というよりも「現代アート」のほうがより新しい時代の作品や作家を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
3つの言葉をどうやって使い分けているか
3つの言葉の使い分けに明確な線引きはありません。
しかし、東京芸術大学には美術学部と音楽学部があり、美術と音楽の両方の意味を含む芸術という言葉が使われています。
武蔵野美術大学は造形学部という言葉が使われています。
やはり、芸術は音楽や美術や文芸など幅広く使われる傾向があり、美術は芸術の中の一部であり、造形表現として使われる傾向があるといえるのではないでしょうか。
アートは、美術と同じ意味で使われることもありますが、受ける印象は若干違います。
アートは、時代が美術よりも新しくより身近で斬新なイメージが強くなっています。
文字だけで絵を描くアスキーアートや顕微鏡でみえる画像を使ったバイオアートなど、比較的新しいジャンルにはアートを使ってネーミングされる傾向があります。
最近は、サイエンスアートのように理系と芸術という正反対にも思えるジャンルをあわせたものや学部も増えています。
芸術と美術とアートの違いを考える時代は終わり、すでに理系や文系や芸術系という枠組みさえも超えた新しいアートの時代が始まっています。
おわりに
芸術と美術とアートに共通しているキーワードは、感性や感情や表現です。
方法や手段、技術は違ってもみる人に何かを伝えようとすることに変わりはありません。
表現する人がいてみる側の感性にうったえることができれば、それは芸術であり美術であり、アートであるのではないでしょうか。