美術の仕事は、医師や保育士のように資格が必要な仕事でもなく、美術大学を卒業しても収入の保障があるわけでもありません。
しかし美術は人の心を解き放ち、お金には変えられない価値がある人類の財産と考えています。
そのような美術のプロを目指すことは、例え高収入でなくても誇りを持っていい目標であり夢であると思うのです。
資格や保証がない夢を実現することは簡単ではありません。
この記事では、多くの美大卒の人をみて感じた「美術のプロになるために必要なこと」をご紹介します。
人にみせられる作品をたくさん用意する
美大を卒業しても、すぐに美術のプロになる人はほとんどいません。
美術のプロには、画家・彫刻家・ガラス工芸・映像作家・舞台美術・美術ライターなどたくさんの種類があります。
美術大学や専門学校では、たくさんある仕事の中から自分がやりたい専攻をみつけ、制作する方法を学ぶことが精いっぱいではないでしょうか。
プロとして売り出すことは卒業してからがスタートです。
どのような仕事でも自分の能力を相手に伝えることから始まります。
とくに美術は言葉よりも作品をみせることが大切です。
さらに仕事につながるチャンスはいつ訪れるかわかりません。
チャンスを逃さないためには「いつでも自分の作品をみせられる準備をしておくこと」がとても大切です。
彫刻や舞台美術は写真や映像にしておきましょう。
絵画もポートフォリオにまとめていつでも人に見せられる形にします。
過去の美術作品は資格と同じ価値があります。
人にみせられる美術作品は、資格のようにスキルの証明になるのです。
自分は「プロである」と公言する
「自分はプロです」と公言することはなかなか難しいことです。
美術は資格や肩書がありません。
自分で「画家です」といえば画家になるし、「趣味は絵です」といえば画家ではなく趣味の人になってしまうでしょう。
美術のプロになるならば、「自分はプロです」と公言することが大切です。
まず自分が自分をプロと認めてあげなければ、だれもプロとは認めません。
自分でプロと宣言することでプロとしての自覚が生まれることもあるのです。
仕事を依頼するクライアントも「プロ」という認識と責任がない人には仕事を頼むことができません。
自分で「プロです」と名乗る人は、それだけ自信があり責任をもてる人なのです。
プロと公言することは、自分がプロになる覚悟を決める第一歩です。
いろいろな所に顔を出していろいろな人と話す
美大を卒業してプロとして成功している人には共通点があります。
それは社交的で人懐っこい性格であるということです。
意外な事実は「絵の技術が高かった人」や「優秀な成績だった人」が有名になっているわけではなく「モテる」人や「要領がいい」人が有名になっています。
「モテる」人は、どんな人にも積極的に話しかけて自分を売り込む能力が長けています。
一見、たいしたことない作品であったとしても「モテる」人は言葉巧みにプレゼンテーションすることができます。
プレゼンテーションが終わるころには作品の見え方が一変していることもあるのです。
「要領がいい」人は、自分にプラスになる人を見抜くことができます。
いろいろな所に出向いて、自分にプラスになる人と出会い自分の作品と名を広めていきます。
技術や作品が優れている人よりも「要領がいい」人の方がプロとして成功するなんて不公平な世界だと感じる人がいるかもしれません。
要領が悪い人でも素晴らしい作品は、世に出て有名になり、作者はプロとして認められるでしょう。
しかし「世に出て認められるまで」に長い年月がかかってしまうのです。
ゴッホは、素晴らしい作品を描きましたが、人付き合いが苦手だったために有名になるまで長い年月がかかりました。
結局、ゴッホの作品を世の中に出したのは本人ではなく弟の妻です。
プロとして認められるためには、やはり作品を世の中に出す必要があります。
そして世に出るタイミングやきっかけは思わぬ縁や出会いであることが多いのです。
いろいろな所でいろいろな人と出会うことが早くプロとして認められるコツかもしれません。
プロになるまであきらめない
ある著名人が「夢を叶えられる人と叶えられない人との違いは何ですか」という質問に対して「夢を叶えるまであきらめなかった人とあきらめた人との違い」と答えていました。
たしかに美術のプロは早く叶えられる夢ではありません。
ほとんどの人は「生活のため」「家族のため」に夢よりも収入を優先します。
美術のプロは、資格を取ったらプロ、就職したらプロという線引きができません。
自分で「夢がかなった」と思えたときが夢を叶えた瞬間です。
夢が叶う瞬間は50歳かもしれないし85歳かもしれません。
葛飾北斎は90歳でこの世を去りましたが、それでもプロになるまであと5年欲しいと言っていました。
自分の夢が叶うまであきらめないことこそが美術のプロになるために必要なことです。
おわりに
「有名な展示会で1回大賞を受賞して転職した人と、人生で一回も受賞することがなかったけれど生涯絵を描き続けた人とでは、後者の方がプロであると思う」と言っていた人がいました。
結果がでるまでに時間がかかる「美術のプロ」になるために必要なことは資格や受賞歴のみではありません。
それは、ひとえに「美術を愛する心」と「美術から離れない心」を持ち続けることではないでしょうか。
これは簡単なことのようですが、意外と難しいことです。