海外の画家のなかでも「素朴派」と呼ばれているのがアンリ・ルソーです。
その名を一度は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
一般的な絵画のイメージとは違い、独創的な絵のテイストなのもあり、インパクトがあります。
アンリ・ルソーとはどんな人物なのか、また稚拙な絵と言われる素朴派の作品についても紹介していきたいと思います。
他の人とは違ったテイストだからこその面白さもありますよ。
アンリ・ルソーとは?
1844年にフランスで生まれました。ラヴェルの配管工の両親のもとで育ち、決して裕福な生活をしていたわけではありません。
子供の頃から手伝いを含め働くことが当たり前の生活をしていました。
もともと美術に長けていた幼少期ですが、父親の借金を背負ったことで家が差し押さえとなってしまい、去ることになります。
学校を卒業したあとは画家ではなく、弁護士になるために法律の勉強をします。
ちょっとしたきっかけがあり軍隊に入り兵役を無事に終えています。
公務員として安定した仕事に就きながら、父親が亡くなり一人になった母親を支えていきました。
15歳になると結婚し6人の子供を設けるも、1人しか生き残ることはありませんでした。
パリの関税の取り立て人などの仕事をしながら、関税調査の仕事を長く続けます。
ここまでの生活で、アンリ・ルソーが美術についての仕事をしていなかったことがわかります。
実はとても大器晩成型の画家になり、40代に入ってから絵を描きはじめました。
仕事を退職したことで時間ができたことがきっかけになっているようです。
パートタイムと、わずかな年金収入を使って生活しながら路上にて自分の絵を売ることに尽力していました。
サロン・ド・アンデパンダンに参加するも絵のテイストから、批判的な意見を言われることも多く、なかにはその熱意に対して興味を持った人もいたのだとか。
1893年にモンパルナスのアトリエに移り住み、亡くなるまで絵を描き続けました。
そんなアンリ・ルソーを高く評価したのは、パブロ・ピカソだといいます。
路上で販売されていたルソーの絵に興味を持ち、賛美するためのイベントである「ルソーの宴」を企画しました。
華やかなイベントでこそなかったものの、アンリ・ルソーの名前が世界的に評価されるきっかけになったともいわれる出来事です。
アンリ・ルソーの絵の特徴
アンリ・ルソーの絵は、一度見たら忘れないインパクトのある作品ばかりです。
もともと誰からも影響を受けていないと話していましたが、実際はピカソやジャンユーゴー、ジャン・メツィンガーなどの芸術家の影響を受け、与えた人物でもあります。
アンリ・ルソーは美術の常識を変えた人物でもあります。
どの絵も背景と被写体のバランスが合わないなと思ったことがありませんか。
実は、自分の好きな都市の風景を先に描いたあとに、被写体などの好きな人物を描く、独特の方法で作品を作っていました。
そのため、背景と比べると被写体が巨大化しているなど、バランスがいい絵とはいえません。
構成を重んじる画家のなかには、これらを馬鹿にするような人もいたようです。
特に若いうちは認めてもらえず、晩年になって独創的な絵として評価してもらえるようになりました。
アンリ・ルソーは、被写体などの人物を描いた作品はもちろん、ジャングルを描いた作品を数多く見かけます。
実は描いた大半がジャングルだったとも言われていますが、本人はジャングルに行ったことがなく、絵本などのイラストを参考にしていたそうです。
アンリ・ルソー自身も、植物園によく足を運んでいたこともわかっています。
アンリ・ルソーを評価している人のなかには、軍役時代にジャングルを見たのでは?とする説もあります。
言われてみれば絵本にあるようなイラストに近いような気もしますよね。
はっきりとした色使いであり、独創的な表現力は、アンリ・ルソーだからこそできたものです。
アンバランスさがなんとも癖になり、何度も眺めていたくなるような魅力的な作品を輩出しています。
アンリ・ルソーの有名な作品は?
アンリ・ルソーは晩年に活躍した画家ではありますが、精力的にたくさんの作品を残しています。
そのため、有名な作品も多く知名度もあります。なかでも絶対に押さえておきたい、アンリ・ルソーの作品を紹介していきたいと思います。
嵐の中の船
1899年頃に描いた作品になり、アンリ・ルソーのなかでは珍しく船を描いたものとして貴重なものです。
現在は、オランジュリー美術館で所蔵されています。
全体のバランスもさることながら、船はとてもアンバランスなのにお気づきでしょうか。
客船のような窓がついていますが、軍艦のような水切りも見て取れます。本物の船でこのような組み合わせは考えられないので、おもちゃのボートをもとにして描いたものでは?とも言われています。
広告などでインスピレーションを得たのか、実際のところはわかっていません。
馬を襲うジャガー
1910年頃に描かれた作品で、アンリ・ルソーの数多く残っているジャングルを描いた作品の一つです。
少しグロテスクな場面が描かれていますが、周囲の木の割合が多いことでいいアクセントにもなっています。
実は完成した作品はジャガーが描かれていますが、もともとはライオンだったのではないか?と言われています。
アンリ・ルソーが描いた手紙の中に「ライオン」の表記があったそうです。
全体の絵の構図とは異なる、アンバランスさがなんとも癖になる、ジャングルの作品だと思います。
人形を持つ子供
1892年に描かれた作品で、まっすぐに正面を見た子供の姿が描かれています。
でも、どこか不穏な印象にもなり、子供なのに大人のような不思議な感覚になります。
体もとても大きく全体のバランスとしてもいまいちです。草のなかに入っている脚も巨大で、平面的な作品としても知られています。
少しながら遠近法を用いていますが、バックの青空は均一で描かれるなど、あえて統一感を持たせないのもアンリ・ルソーらしさです。今までの美術の常識を変えた作品ともいえるのではないでしょうか。
婚礼
1905年頃に描かれた作品で、結婚式の肖像画のような華やかなイメージを持つはずです。
ただ、本当にお祝いの席なのかを疑いたくなってしまうようなどこか不気味さもあります。
前にいる犬も人間とのバランスを考えるとあまりに大きすぎます。
ただ婚礼の席を描いたものではなく、どんな意味があるのか考えてしまうのも絵の面白さかもしれません。
蛇使いの女
蛇使いの女は、1907年に描かれた代表的な作品で、現在は、オルセー美術館に所蔵されています。
この作品では、神秘的なジャングルを背景に、中央で蛇と対峙する女性が描かれています。
鮮やかな色使いと緻密な植物の描写が特徴的で、見る者を非現実的な世界へと誘います。
ルソーの想像力豊かな表現は、当時の芸術界に新たな視点を提供し、後のシュルレアリスムにも影響を与えました。
まとめ
アンリ・ルソーの作品はとても独創的です。彼だからこそ描けたといっても過言ではないものばかりです。
晩年に評価されたこともあり、アンリ・ルソーがどんな想いで描いたのかわかりにくい部分もありますが、絵の意味を考えながら鑑賞してみるのも面白いかもしれません。
アンリ・ルソーの魅力を実際に体験してみてくださいね。