この記事では、明治から大正の日本をさまざまな視点から描いた外国人画家をご紹介いたします。
同じ日本の風景であっても、日本人と外国人の見方には違いがあるのかもしれません。
どちらも日本の特徴を捉え、甲乙つけがたい魅力があります。
社会科の教科書でみた絵「ジョルジュ・フェルディナン・ビゴー」
ビゴーの作品は、社会科の教科書に掲載されています。
日清戦争前の3つの国の情勢を描いた風刺画「魚釣り遊び(漁夫の利)」は有名です。
他にも「メンザレ号の救助(ノルマントン号事件)」が教科書に掲載されていました。
ビゴーは、1860年にフランスで生まれました。
ビゴーの母は画家で、ビゴーも12歳で美術学校に入学します。
しかし経済的な理由から中退し、新聞や雑誌に挿絵を寄稿しながら生活をするのです。
このころから日本に興味を持ち、22歳で日本にやってきます。
はじめは銅版画を制作しますが、時局風刺雑誌「トバエ」が創刊されると風刺画家としての才能を開花させます。
ビゴーは、34歳で日本人女性と結婚し長男モリスが生まれます。
しかし、38歳で離婚し、モリスと共に帰国し、フランス人女性と再婚します。
ビゴーは、風刺画家として有名ですが明治になってからは、報道画家として日本のありのままの姿を描いています。
明治24年に岐阜・愛知を襲った大地震直後は現地に行って、被害の様子を描いています。
明治29年の三陸地方を襲った大津波の被害もビゴーの絵はありのままの惨状を伝えています。
ビゴーは、いずれフランスに帰国したいと思っていたため、日本の風景画をフランスのサロンに出品してフランスの画壇に認めてもらおうとしていました。
しかし、フランスのサロンンに入選することはありませんでした。
晩年は、好きな小説に手描きで挿絵を描き続けていたといわれています。
戦前戦後の東京を描いた「ノエル・ヌエット」
ノエル・ヌエットは、1885年にフランスで生まれました。
パリ大学では文学を専攻し、出版社に勤務しながら詩集を出版しています。
大正5年にフランス語の教師として日本にやってきます。
現在の東京外国語大学でフランス語の教師として働きながら、東京の風景を描いた画集を発表しています。
東京を描いたスケッチは「ジャパンタイムズ」に掲載されました。
昭和11年には、新版画の土井版画店から24連作の「東京風景」を発表しています。
「東京風景」は、毎月2枚ずつ発表し、1年かけて完成しました。
スケッチをもとにして描かれたペン画のタッチは独特で、「両国橋」や「御茶の水」の雲の描き方は日本人絵師には見られない個性があります。
ノエル・ヌエットは、昭和36年に帰国するまでの36年間日本で暮らし、東京の戦前戦後の情景を描き続けた画家です。
ノエル・ヌエットのほかにも新版画で日本を描いた画家たちがいます。
エリザベス・キースは、1887年にスコットランドで生まれました。
作品「藍と白」はタイトルの通り、藍色と白色を中心にして描かれた作品です。
描かれている風景は、骨とう品店の店頭のようで、ショーウィンドウの中には葛飾北斎の「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」が飾られています。
藍染の着物を着た女性は左手に扇子を持ち、右手には和傘を差している日本の情景そのものです。
使われている藍色は、葛飾北斎が好んで使ったプルシアンブルーであり、浮世絵の日本らしさと西洋の洋も感じます。
大正後期から昭和初期は、外国人による新版画が多く発表され、浮世絵に端を発した日本の新版画が世界に羽ばたいていきました。
日本の生活を生き生きと描いた「ロバート・フレデリック・ブルーム」
ロバート・フレデリック・ブルームは、1857年にアメリカで生まれました。
19歳の時にみた展示会がきっかけで日本に興味を持ちます。
美術学校で学び、33歳で日本にやってきます。
明治初期の日本の人々を2年3ヶ月に渡って描き帰国します。
作品は、数々の賞を受賞し45歳という若さでこの世を去りました。
ロバート・フレデリック・ブルームの作品は、日本の風景よりも日本人の日々の生活が描かれています。
写真のように写実的でありながらも、写真以上に人々の声や息づかいまでも聞こえてくるかのような生き生きとした表現が魅力的です。
シカゴ万博で金賞を受賞した「花売り」は、1891年に制作されました。
明治といっても江戸時代の雰囲気を強く感じる作品で、時代を超えてその場の空気を感じているかのような臨場感ある作品です。
ロバート・フレデリック・ブルームがのこした作品は、多くはありません。
しかし2015年に出版された画集「JAPAN」(芸術出版社)には、日本の路地や屋台ひとつひとつに魅力を感じ、日本を愛したロバートの気持ちが詰まっています。
おわりに
今回は、日本を多岐にわたる視点で描いた外国人画家をご紹介しました。
明治から大正の激動の日本を描いた彼らの作品には、浮世絵の中にみるきれいな日本とは全く違った躍動感ある「JAPAN」があります。
当時の空気や情緒を感じる作品をみながら、当時の日本を想像してみてはいかがでしょうか。