サモトラケのニケは、フランスのルーブル美術館にあります。
大理石で作られた彫刻作品で5.57mもの大作です。
作品にはパトスの大理石とロードス島のラルトス石(台座)の2種類が使われています。
サモトラケのニケは、ひとつの大きな大理石の塊を彫って作られたのではなく、細かく分割したパーツを作ったあとに組み立てられています。
この記事では、サモトラケのニケがなぜ人の心を惹きつけるかについて掘り下げます。
知っておきたい!サモトラケのニケ基礎知識
制作された時期は紀元前220年~185年といわれ、作者はわかっていません。
1863年に考古学が好きなシャルル・シャンポワゾによってギリシャとトルコの間に浮かぶサモトラキ島で発見されました。
最初は胴体部分だけがみつかり、その他のパーツは胴体のまわりに118個にわかれて発見されました。
のちに118個の大部分が左の翼の一部とわかり、修復されて現在のサモトラケのニケになったのです。
右の翼は2つの破片しか見つからなかったため、復元した左の翼をもとにして作られました。
サモトラケのニケは船の先端に立っていたと考えられています。
サモトラケのニケは、海での戦いに勝利した感謝の気持ちとして作られたものといわれ「勝利の女神像」としても有名です。
ちなみにスポーツメーカーの「NIKE」の名前はニケからきています。
高級グラスブランドのバカラ2016年イヤータンブラー「GLORIA」はサモトラケのニケの翼をモチーフにしています。
「GLORIA」は、「栄光」をテーマにした作品で夢をかなえるために頑張っている人や勝利を勝ち取った人へのお祝いとして人気のデザインです。
このようにサモトラケのニケは時代を超えて人の心を惹きつけています。
「ない部分」が人々の想像力をかりたてる
サモトラケのニケは顔もなければ両腕もありません。
発見当時は、胸より下の胴体と右肩と左の翼だけでした。
しかし、首は残っていたためわずかに頭を左側に傾けていたことがわかります。
さらに肩の傾きから、左腕は下向きで右腕は上向きになっていたと予想されるのです。
そして1950年に右手の一部が発見されたことで、右手には勝利者に与える冠やリボンのようなものを持っていたといわれています。
残された部分からは、動きのあるポーズをとっていたことが予想されますが、肝心の顔や全体の印象を決定する腕の動きがわからないことで、サモトラケのニケはみる側に「想像させる余地」を残しているのではないでしょうか。
一般的に「ない」ことはマイナスの影響を与えるものですが、芸術や美術だけは違うのかもしれません。
「ない」ことによって、人々は「ある姿」を想像します。
ミステリアスな部分は、人間にとっても彫刻にとっても魅力になるのではないでしょうか。
サモトラケのニケ以外にも「欠けている部分」や「未完成であること」が人を惹きつけている作品はあります。
例えば、有名なモナリザも4年間も描き続けたけれど、結局は未完成といわれています。
現代では未完成であることが「モナリザの謎」として人々を惹きつける理由の一つになっています。
世界遺産であるサグラダファミリアもいまだ完成されていません。
「もしかしたら生きているうちに完成した姿を見られないかもしれない」という手の届かなさ、未知の作品であることが魅力になっています。
静の彫刻でありながらも風と動きを感じる
サモトラケのニケは大理石で作られた彫刻です。
固く動かない石の塊のはずなのに、サモトラケのニケからは風や動きを感じます。
その原因は、サモトラケのニケがまとっている薄い布の表現力と完成度の高さでしょう。
サモトラケのニケは肌が透けるような布をまとい、前から強い風を受けています。
とくに腹部の表現が見事で、大理石でありながらも肌や筋肉のやわらかさを感じるのではないでしょうか。
前に出た右足には、ずれ落ちたマントがのっていて強い風が吹いている様子を感じます。
マントは腹部分の薄い布とは全く違う表現です。
薄い布は肌にはりつくように表現されていますが、マントは重なって足にひっかけることで重量感が表現されています。
静と動、軽と重の対比が全体にメリハリを与えているのです。
ギリシャ時代の彫刻のほとんどは、動きはあってもしっかりとポーズをとっているものばかりです。
ミロのビーナスもなめらかな布の表現が見事ですが、ポーズは止まっています。
サモトラケのニケは、動かない彫刻でありながらも動きと描写力の二つの融合によって風をも感じさせる魅力があるのです。
サモトラケのニケの展示場所
サモトラケのニケは、ルーブル美術館の中でも一番目立つ場所に展示されています。
ルーブル美術館内に展示されている多くの作品をみるために進路を進んでいくと、大階段があります。
その大階段の上にサモトラケのニケは立っています。
しかも作品の上部の天窓からは太陽光が降り注ぎ、まさに勝利を告げるために海上に舞い降りた女神です。
日本国内にもサモトラケのニケのレプリカはたくさんあります。
しかし、ルーブル美術館ほどサモトラケのニケが発見された背景や作られた意味まで表現できている展示の仕方をしている場所はないでしょう。