絵には、言われないとわからない、びっくりな秘密やなぞが隠されていることがあります。
秘密を知る前と知った後とでは、同じ絵でも見方が大きく変わるでしょう。
なぜこのような秘密を持つことになったのかを知ることで、作品が描かれた時代背景にも触れることができます。
この記事では、言われてびっくりな秘密を隠している絵を3作品紹介します。
「青い服の子供」オーギュスト・ルノワール|びっくりの絵
ルノワールの作品は、優雅でかわいらしい女の子の絵が多くあります。
とくに「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」は、女の子の愛らしさがあふれている人気が高い作品。
「青い服の子供」も青い服を着た髪の長い子どもがひとり描かれています。
年恰好もジョルジェット・シャルパンティエ嬢に似ていますが、雰囲気に違いがあるのです。
「青い服の子供」の表情にはやわらかさや愛らしさよりもりりしさや強さというイメージがあります。
実は「青い服の子供」のモデルは男の子。
ルノワールの甥っ子ともいわれています。
金髪の美しい髪や青いワンピースは女の子を思わせますが、表情からは男の子の雰囲気が漂っています。
この作品が描かれた時代は、女の子よりも男の子のほうが体は弱く、長く生きづらい時代でした。
そのため、男の子に女の子のような恰好をさせて描き、元気に育つことを願ったのです。
「青い服の子供」はルノワールの画集を探してもなかなかみつけることができません。
しかし、2004年に開催された「モネ・ルノワールと印象派展」のパンフレットでは表紙を飾っています。
「青い服の子供」は、秘密が隠された、びっくりな絵の代表作です。
「着衣のマハ」フランシスコ・ゴヤ・イ・ルシエンテス|びっくりの絵
「着衣のマハ」は、若い女性がベッドに横になりこちらをむいている作品です。
ベッドに横になってはいますが、白い服をしっかりと着こみ肌の露出はありません。
ゴヤは、社会に対する思いを絵にぶつける人です。
「着衣のマハ」も当時の封建的な社会に対する意志表現の作品かもしれません。
実は、「着衣のマハ」と同じ構図で描かれた「裸のマハ」という作品があります。
当時は、女性の裸の絵は神話の女神だけが許されていました。
しかし「裸のマハ」は女神ではなく生身の女性です。
権力者からの依頼で描いた作品とはいえ、生身の女性の裸を描くことは、ゴヤならではの社会に対する意志表現だったのかもしれません。
「裸のマハ」と「着衣のマハ」は重ねるように飾られていました。
普段は「着衣のマハ」だけが飾られているようにみえます。
しかしハンドルを回して「着衣のマハ」をどかせば「裸のマハ」が登場するというカラクリがありました。
「着衣のマハ」は「裸のマハ」を隠すためのカバーだったのです。
「裸のマハ」は軍によって発見されてしまったとき、作者であるゴヤは「モデルは誰か」と追及されます。
しかし、ゴヤは最後までモデルの正体を明かしませんでした。
モデルはゴヤと親密な関係にあったといわれているアルバ公爵夫人、もしくは作品を依頼したマヌエル・ゴドイの愛人といわれています。
ゴヤが最後まで口を閉ざしていたため、モデルの正体は現在でも秘密です。
「庭師」ジュゼッペ・アルチンボルド|びっくりの絵
「庭師」は、鉢にたまねぎやキノコがギュウギュウに詰まっている絵です。
タイトルの「庭師」はどこにも見当たりません。ひとつひとつの野菜は細密に描かれ、どれも立派に実っています。
「庭師が丁寧に手入れをしたから見事な野菜ができた」と理解することもできます。
しかし、この作品には大きな秘密があります。
それは、絵をみる向きをかえると、今までとは全く違う絵が見えてくるのです。
「庭師」を上下さかさまにします。
するとたまねぎは大きな頬になり、ふたつのキノコは唇になるのです。
野菜の詰め合わせだった絵が「庭師」の肖像画に変わります。
アルチンボルドはイタリア生まれの宮廷画家です。
野菜や動物を使って描く肖像画は人気があり、当時の権力者たちはこぞってアルチンボルドに肖像画を依頼しました。
中でもハプスブルク家の肖像画「四季」は有名です。
「四季」は春夏秋冬の4枚で構成されています。
「春」は花や葉を使って華やかな肖像画、「夏」は夏に旬をむかえる食べ物で大きく肖像画を描いています。
「秋」は実りの秋です。ぶどうで髪を表現しています。
「冬」は一変し暗い木で描かれていますが胸元の身や小さな緑の葉が新たな季節の到来を予感させます。
アルチンボルドは、「めぐる四季」で肖像画を構成することでハプスブルク家の末永い繁栄への願いを込めました。
ただ面白い絵ではなく「びっくりな秘密の思い」を込めていることがアルチンボルドの作品の魅力です。
まとめ
びっくりな秘密が隠された絵には、作者の強い思いや意志が隠されています。
ルノワールにしてもゴヤにしても、絵を描く技術が高く、志が高いからこそ秘密をさりげなく作品に隠すことができたのではないでしょうか。
秘密の絵は、美術がたんなる娯楽ではなく、意志や時代を伝える手段になり得ることを教えてくれます。