デッサンはすべての基礎です。
油絵や日本画だけではなく、彫刻やデザインすべての美術の土台はデッサン力にあるといっても過言ではありません。
美大受験予備校では、徹底的にデッサン力を鍛え上げます。
しかし、中にはいくら予備校や教室で描いてもうまくならない人がいるのです。
今回は、独学で効率よくデッサン力をつける方法を紹介します。
画材の選び方
「自分にはデッサン力がない」と思っている人の中には、実力とあっていない画材を使って描いている人が意外とたくさんいます。
どんなに数を描いても正しい画材を選ばなければ上達は難しいです。
デッサンに初めて挑戦する人ならば木炭がおすすめです。
一般的にデッサンは鉛筆で描くものと思われていますが、鉛筆は一度にのせられる色が少なく手数を多くしなければなりません。
一方、木炭は粒子の大きさが鉛筆よりも大きく、一度にたくさんの黒色を紙の上にのせることができます。
さらに食パンを使って紙を傷めずに消したり、薄くしたりすることができます。
初心者は失敗を恐れて少しずつ色を重ねる傾向があります。
デッサン力を効率よくつけるためには、思いっきり黒色をのせて「真っ黒になっちゃった」という経験を積み重ねることが大切です。
なかなか色がのせられない人よりも真っ黒のデッサンを描いていた人の方が上達は早いかもしれません。
木炭でデッサンするときには木炭紙を使います。
色をのせられるようになってきたら鉛筆を使います。
鉛筆は最初からたくさんの種類を揃えましょう。
メーカーや芯の固さによって色が違います。
芯の固さは6Bから9Hまであり、メーカーによってはFや7Bから10Bを製造していることもあります。
最低でも4BからHまでは色の幅をだすために必要です。
デッサンのよくある失敗と対処方法
ボヤッとした絵になった
デッサンを描き始めた人に多い失敗です。
慣れない人は何度も描いては消すため、紙の目がつぶれてしまい、色がのらなくなってしまいます。
また、ハッキリと描くことに臆病になってしまい、モチーフの輪郭をぼかしてしまっていることが原因かもしれません。
対処方法は、木炭のようなやわらかい画材を使って、紙の目をつぶさないようにすることです。
さらに失敗を恐れずに大胆に手を動かしてみましょう。
形がとれない
瓶や箱をデッサンしてみると形がゆがんでいたり、あり得ない方向に曲がっていたりすることもあります。
これは「形がとれていない失敗」です。デッサンは、形を正確にとり、陰影をつけます。
形がとれていなければ、どんなに陰影をつけてもいびつなデッサンに仕上がるのです。
対処方法は、モチーフをよく観察して構造を分析することです。
例えばサイコロならばすべての辺が同じ長さに見えなくてはなりません。
リンゴならば、へたは本体の重さが支えられるような付き方をしていなければいびつにみえるでしょう。
デッサンは感覚ではなく、知識と技術が必要です。
まっ黒になった
デッサンを楽しんで描いているとまっ黒のデッサンになることがあります。
原因は、全体に黒が多すぎたからです。
描くときに描くところを凝視して、すべてのパーツに対してしっかりと手を入れたのでしょう。
対処方法は客観的に見直してマイナスの作業をすることです。
客観的にモチーフをみてみると光のあたっている方向やピントがずれてみえるところがあるはずです。
そして、黒過ぎているところは練りゴムを使ってマイナスしていきましょう。
デッサンは黒をプラスするだけではなく、マイナスしながら描くこともできるのです。
デッサン力をつける3つのポイント
ひとつ目のポイントは、とにかくデッサンを描くことです。
「描き方の本」をいくら読み込んでも実際に手を動かしてみると全く違う結果になります。
デッサンは失敗を繰り返しながら徐々にコツやノウハウを身につけていくものです。
筆者は美大受験予備校時代に講師から「最低300枚は描かないとうまくならない」と言われました。
ふたつ目のポイントは「モチーフを描く」と思わないことです。
例えば、リンゴをデッサンするとき「リンゴを描く」と思って描くのではなく「陰影を描くことでリンゴの形を浮かび上がらせる」と思って描くといいでしょう。
物の形は陰影によってできています。
どこから光がきて、どのように影が落ちているのかを頭で考えてみると違った見方ができるようになります。
最後は感覚と知識の両方を使うことです。
デッサンは感覚だけではうまくなりません。
形をとるためには鉛筆を使った「縦横比計測法」や「角度計測法」があります。
構造や計測法の知識はデッサン力をつける助けになります。
かといって知識だけで描いた作品は味や雰囲気に欠けます。
基礎的な知識に基づいたら、モチーフから感じた雰囲気や気持ちを表現してみましょう。
おわりに
デッサンは筋トレにたとえられます。
筋トレは、つらく地味ですが華やかな演技をするためには必要なことです。
デッサンも同じです。ピカソの作品はデッサン力がない人が描いたように見えますが、実はピカソは高いデッサン力の持ち主です。
優れた画家や美術家は高いデッサン力を基盤にしてオリジナルの表現を持っています。
デッサン力を身につけることは苦しいことかもしれませんが、自分の思いを表現するためにはとても大切で必要なことなのです。