この記事では、SDGsをもとにして、美術が自然環境にできることについてご紹介いたします。
SDGsという言葉を耳にする機会が増えました。
SDGsは、美術や芸術とは関係のない言葉に思われがちですが、近年は美術や芸術が自然環境に与える影響が大きなテーマとして取り上げられています。
SDGsとは?
SDGsは「Sustainable Development Goals」の頭文字にGoalsの最後のSをつけた略です。
日本語に訳すと「持続可能な開発目標」になり、2015年の国連で採決されました。
2030年までに達成すべき目標が17個あり、世界が協力して達成したい目標になっています。
内容は、環境問題や自然に関するものだけでなく、教育や経済など幅広いジャンルの目標が掲げられています。
日本でも、SDGsの取り組みはさかんに行われています。
SDGsは、地方創生や超スマート社会というキーワードは間接的かもしれませんが美術や芸術にも関係があることかもしれません。
17個の目標の中に「つくる責任つかう責任」があります。
美術はものを作ります。
自然由来の材料もあればプラスチックが使われることもあります。
そして制作には電気や水も使います。
美術に携わる人ならば、SDGsのひとつである「つくる責任」をしっかりと考えて制作する必要があるのではないでしょうか。
SDGsにおける美術と自然の共存「環境アート」「グリーンアート」とは?
SDGsにおいて美術は、自然との共存を考えた持続可能なものにしなければなりません。
そこで生み出されたものが「環境アート」と「グリーンアート」です。
「環境アート」と「グリーンアート」の区別は、わかりやすく言えば「環境アート」は環境をテーマにして制作された作品で、「グリーンアート」は環境にやさしい材料で制作された作品です。
「グリーンアート」は必ずしも環境がテーマになっているとは限りません。
「環境アート」は、見る人に自然環境について考えさせたり、自然環境と接したりするきっかけになる作品が多くあります。
例えば、2018年に発表されたバンクシーの「季節の挨拶」は自然環境をテーマにしています。
子どもが降ってくる雪に向かった手を広げている作品のように見えますが、続いている別の壁をみると降っているものは雪ではなくゴミを燃やした灰であることがわかります。
この作品は、イギリスの煙突の壁に描かれました。
つまり、ゴミを燃やすことで発生する二酸化炭素や大気汚染に対する抗議の気持ちが込められた作品です。
「グリーンアート」は、毒性がない自然素材やリサイクルできる材料で作られた作品です。
「グリーンアート」は小中学校の美術でも行われています。
ペットボトルキャップや短くなった鉛筆など身の回りにある不用品が子どもたちの豊かな発想でみごとな美術作品に生まれ変わっています。
2015年に始まった「リサイクルアート展」には、毎年リサイクル品で作られた力作が出展されています。
今までは環境問題と美術は別々に取り上げられる傾向がありましたが、「グリーンアート」に取り組むことでSDGsの目標でもある「つくる責任」について考え、自然環境と美術を一体化した教育が進んでいます。
「環境アート」も「グリーンアート」も作家の感情や感性を表現するだけが目的で制作されるものではなく「自然環境との共存」が根本にあるアートです。
自然環境を守った作品「となりのトトロ」
宮崎駿氏の「となりのトトロ」は、1988年に公開された映画です。
自然環境や大気汚染問題などには一切触れていない作品ですが、「となりのトトロ」はひとつの山を開発から救っています。
「となりのトトロ」は、所沢にある狭山丘陵が舞台のモデルになっています。
映画に出てくる田園風景が目の前に広がっている自然豊かな場所です。
「となりのトトロ」をきっかけに「トトロのふるさと基金」が設立されました。
土地を買い取ることで森を保存しています。
1990年から始まった活動により集められた寄付金の総額は9億5千万円以上です(2020年時点)。
すべて土地を買い取る目的に使われます。
ただ単に「雑木林のために寄付をしてください」と言っても多くの寄付を集めることは難しかったかもしれません。
「となりのトトロ」という作品が雑木林の魅力や狭山丘陵の魅力を多くの人に伝え、結果として自然環境保護に結びついたのです。
おわりに
美術や芸術は、筆に動物の毛を使い、絵の具には化学物質や木を原料とする紙も使います。
美術や芸術のすべてを「グリーンアート」にすることはできません。
しかし、生み出す作品によっては人々に自然の大切さを伝え、たくさんの人々を動かす力になるかと思います。