この記事では、俳句に詠まれた春夏の植物(春・夏の季語)と、その植物の育て方についてご紹介いたします。
日本人なら、誰もが知っている俳句。時節にふさわしい季語を入れて「五・七・五」になるように詠みます。
俳句に欠かせないのが「植物」の存在です。
四季のある日本では、季節ごとに様々な植物が盛りを迎えます。
植物を詠むことで、効果的に季節を感じさせることができるのです。
春の季語と春の植物を詠んだ俳句
春の季語
春の季語といえば以下のようなものがあります!
- 春、雪解、ひな祭り、たらの芽、蒲公英(たんぽぽ)、入学、風船、シャボン玉、草餅、桃の花、桜、花冷え、チューリップ、スイートピー、つつじ
春の植物を詠んだ俳句
野に出れば人みなやさし桃の花(高野素十)
春の訪れにふさわしい、心も温かくなるような一句です。
桃源郷という言葉があるように、桃の花は日常を忘れさせてくれる力があるのでしょうか。長い冬がようやく終わる喜びも伝わってくるようです。
高野素十は、昭和初期から活躍した俳人で、医師でもあります。
東大時代の先輩の水原秋櫻子、山口誓子、阿波野青畝(せいほ)とともに四Sと呼ばれます。
四Sは「ヨンエス」とも読まれていますが、正確には「シイエス」と読むのだそうです。
算用数字ではなく漢字の「四」を使っているところが時代を感じさせます。
チューリップ喜びだけを持つてゐる(細見綾子)
こんなに誰もが知っている言葉だけを使って、こんなに新鮮な句ができるとは。
この句について調べると、好きな俳句として挙げている人が多くいました。
人の生きる道は決して「喜びだけ」ではない、という言わずもがなの共通理解があるからこそ、この句の良さを感じられるのではないでしょうか。
細見綾子は、1907年生まれの俳人。
若くして父母と夫に先立たれ、肋膜炎という痛みをともなう病にも悩まされた経歴の持ち主です。
喜びだけではない人生の中で、一瞬でも花を見て「喜びだけ」と詠める細見綾子さんは素敵な方だったことでしょう。
俳句は何も知らずに味わっても単純に楽しく、作者のことを調べてみるとまたちがった奥深さを感じられます。
知らないときと知ってから、2通りの楽しみ方ができる点は、花を見るときと同じです。
夏の季語と夏の植物を詠んだ俳句
夏の季語
夏の季語といえば以下のようなものがあります!
- 夏、立夏、若葉、新緑、麦、うなぎ、ツバメの子、めだか、万緑、打ち水、へちま、向日葵(ひまわり)、百日紅(さるすべり)、秋近し
夏の季語を用いた有名な俳句
そよ風に 座る者待つ 蓮の花(伊丹三樹彦)
本当に蓮の花は、座る人を待っているかのように水面にいくつも浮かんでいるものです。
蓮の花といえば仏像が座っているのも、蓮の花。
いずれは人も亡くなれば、蓮の花に座る身になる、ということを暗示しているようでもあります。
伊丹三樹彦は、1920年兵庫県伊丹町(現・伊丹市)生まれの俳人、写真家です。
13歳から俳句を始め、2019年に99歳で亡くなるまで多くの句を残しました。
万緑の中や吾子の歯生え初むる(中村草田男)
「万緑」とは草木が生い茂り見渡す限り緑であることを表していて、中国の古典が由来の言葉です。
作者の中村草田男が好んで使い、草田男の代名詞とも言われます。
また「吾子」も草田男の俳句の特徴と言える言葉。
赤子でも幼な子でもなく「自分の子」であることが、俳句に意味を与えています。
有名なこの句は、万緑の緑と歯の白さが好対称をなしていると言われています。
広大な緑とごく小さな赤ちゃんの歯が、その姿は異なるものの両者とも生命のきらめきを感じさせてくれます。
中村草田男は、正岡子規の弟子にあたる高浜虚子に学んだ俳人です。
つまり、この次に取り上げる子規の孫弟子というわけです。
俳句に詠まれた植物の育て方
チューリップ
チューリップは、切り花としても自宅で育てる花としても人気です。
ここでは、球根を植えて育てる方法を紹介します。
植え付け
10月半ばから11月半ばにかけて、球根を植えます。
植えつけに適した時期は地域によって異なりますが、ちょうどその土地の紅葉の時期が最適な気温となります。
翌年の球根を取りたい場合には、球根1〜2個分のスペースをあけて植えます。
深さは5〜10センチにすると良いでしょう。
冬期
冬期の乾燥は花が咲かない原因になりますので、とくに鉢植えに植える場合にはこまめに水やりをします。
肥料は必要ありません。日当たりが良く、冬の寒さに当たる屋外で管理します。
開花
葉が出た後は、月に2〜3回液肥をやると育ちが良くなります。
4月初めから5月の初旬が開花の時期です。
花後の管理
花がらを摘み、水やりを続けます。月に2〜3回の液肥も続けます。
葉が黄色く枯れてきたら球根を掘り出し、日陰で1週間乾燥させます。
球根の管理
球根の上で茎を切り、ネットなどに入れて風通しが良く雨の当たらない場所で、次の植え付け時期まで置いておきます。
蓮の花
夏の俳句で登場した植物は、一面の緑を表す「万緑」と「蓮の花」。
育て方をご紹介するには必然的に蓮の花の方を選ぶことになりました。
ガーデニングに向いているか調べたところ、意外にも家庭でも育てられることがわかりましたので、紹介していきます。
容器
ハスは泥の中にレンコンがあり、茎を伸ばして水面に花を咲かせます。
容器は植木鉢ではなく、カメや樽を選びます。
直径40〜50センチの容器があれば、花も立派に育つのでおすすめです。もちろん池があれば池でも大丈夫です。
苗の選び方
ハスの苗は、冬越しを終えた3月以降の植え替えの時期と花が咲かせる夏頃に流通しることが多いようです。
近所で手に入らない場合は、インターネットが便利です。
植え替えは根を傷つける心配があることから、初心者は夏に近い時期に花のついた苗を選ぶ方が成功しやすいようです。
土
田んぼの泥があれば適していますが、手に入らない場合には、赤玉土や腐葉土、水を混ぜて自分で粘土質の土を作ります。
土の量はカメの底から10センチ以上あれば育ち、通常はカメの半分ぐらいの土が適量になります。
植えつけ
上記の土をカメの中で作り、植えつけまでする方法がやりやすいようです。
土を練って、粘土状になってきたところに、苗のレンコン部分を水平に植えます。
肥料を与えたい場合には根から離れたところに埋めておきます。
土に埋めることで、水が汚れやすくなるのを防ぎます。
土の作業が終わったら水を張り、葉と花を浮かべましょう。
水は、夏場はカメいっぱいに張った方が蒸発を防ぐことができます。
水温が低すぎない方が水質を保つバクテリア等が発生するので、水を一気に入れ替えることは避けましょう。
水が少なくなってきたら、上から水を足します。
置き場所
ハスは日当たりの良い場所を好みます。
大きめの泥の入ったカメは移動させるのが難しいので、日当たりを見極めて置き場所を決めましょう。
いつまで楽しめる?
8月いっぱい花を咲かせてくれます。
次から次へと花を咲かせてもらうには、咲き終わった花がらは摘みとっておくことが大切です。
花の終わったハスは、凍らなければ屋外で冬越しができます。
3月ごろに密集している株を分けて、新しく植えつけると翌夏も花を楽しむことができます。
おわりに
今回は、俳句に詠まれた春夏の植物(春・夏の季語)と、その植物の育て方についてご紹介しました。
ご紹介した中で、季語のチューリップは、病に悩まされた作者によって詠まれていました。
物も言わずひたすらに葉を広げ花を咲かせる植物の姿は、人の心を打つものがあるのでしょう。
病気ではなくても悩みは尽きない毎日の中に、植物があるとほっとするものです。