有名な絵には、よくわからない絵がたくさんあります。
ピカソの作品は、幾何学的な形で構成されたちぐはぐな絵やアンバランスな顔の絵がたくさんあります。
シャガールの作品も「なぜ彼らは飛んでいるのだろう」「なぜここにヤギがいるのだろう」と理解が難しいかもしれません。
この記事では、よくわからない絵の魅力をわかりやすく解説しましょう。
ピカソの絵は一見よくわからなくても感情に強くうったえてくるものがある

By Pablo Picasso – PICASSO, la exposición del Reina-Prado. Guernica is in the collection of Museo Reina Sofia, Madrid.
Source page: http://www.picassotradicionyvanguardia.com/08R.php (archive.org), Fair use, リンク
ピカソは最初から「よくわからない絵」を描いていたのではありません。
ピカソは小さいころから美術学校の教師であった父に絵を習い、ピカソ自身も美術学校に進学しています。
10代の作品は、いわゆる「うまい絵」です。つまり、ピカソは描けないから「よくわからない絵」になったのではなく、理由があって「よくわからない絵」を描くようになったのです。
ピカソやシャガールの「よくわからない絵」について解説すればキュビズムや現代美術などの単語が出てきますが、今回は歴史や分類は気にせず、作品の魅力についてお話しします。
「ゲルニカ」は教科書にも出てくるピカソの代表作です。
「万博に飾る壁画」として依頼を受けて描かれた作品にもかかわらず、戦争の悲惨さが描かれています。
戦争の悲惨さを描くならば「もっと具体的に写実的に描いた方がいいのでは」と思うかもしれません。
しかし、抽象的で「よくわからない絵」だからこそ見る側に想像させることができているのです。
作品「ゲルニカ」の中には牛や馬がいます。にもかかわらず、天井からは室内照明のような器具がぶら下がっています。
一見「よくわからない組み合わせ」ですが、よく考えてみると牛と馬はピカソの出身地スペインの闘牛とつながり、照明器具は光もしくは爆弾とつながります。
色彩豊かな画家ピカソが、あえてモノクロで描いたことにも深い意味を感じるのではないでしょうか。
ピカソの作品は、手がやたらと大きかったり、険しすぎる表情だったり、一見「よくわからない絵」がたくさんあります。
しかし、絵が描かれた背景を知ればすべてに意味があることに気がつき、絵の奥深さに驚かされます。
ひとつひとつのパーツに強い思いが込められているからこそ、ピカソの絵は「よくわからない」けれど、なぜか感情にうったえてくるものがあるのではないでしょうか。
シャガールは夢で見たような情景を絵にした人

By Marc Chagall – http://cgfa.sunsite.dk/chagall/index.html The server for this domain cannot be found, it is a dead link, PD-US, リンク
シャガールの作品は、男女が空を飛んでいたり空中でキスしていたり現実ではありえない絵がほとんどです。
最初は「一体どんな状況を絵にしたのか」と考えてしまいます。
シャガールは妻をとても愛していました。絵に登場する女性は妻だといわれています。
シャガールの気持ちをそのまま絵に表現したから夢の中でみるような情景になったのでしょう。
シャガールは妻の絵をたくさん描いています。
妻一人の絵を描くときには、きちんと垂直に立ち、とても写実的に描いています。
一方、妻と自分を描くときには自分の気持ちが先行するせいか非現実的な構図の作品がほとんどです。
シャガールは妻を亡くしたとき、花束の絵を描いています。
画面いっぱいの花束ですが、夢の中でもファンタジーでもなく、ただ写実的な花束が凛と描かれています。
そして、その傍らには小さく男女が描かれているのです。最愛の妻との別れは悲しい現実であり、写実的な花束で表現されています。
そして、その傍らには変わらず妻を思う気持ちがシャガールらしく添えてある温かい作品です。
シャガールの作品は情景や状況は「よくわからない絵」ですが、ひとりの女性に対する強い思いが込められています。
その強い思いが見る人を惹きつけるのでしょう。
モンドリアンの魅力は「もう1ミリも動かせない」気持ちよさ

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モンドリアンの「赤青黄のコンポジション」は、水平と垂直で構成されているシンプルな作品です。
意味を問われれば「よくわからない絵」に違いありません。宇宙や調和といわれれば、そういう気もしてきます。
モンドリアンのコンポジションの魅力は「もうなにもプラスマイナスできない」「1ミリも動かせない」という極限までそぎ落とした究極の「シンプル美」です。
作品右下にクリームイエローが小さくあります。
「このクリームイエローは必要? 」と思う人がいるかもしれません。しかし、手でクリームイエローを隠してみると、瞬く間にバランスが崩れます。
左側の大きな青色と小さいけれど明るく存在感あるクリームイエローが絶妙な「1ミリも動かせないバランス」をとっているのです。
何かを作るとき少しずつプラスしてボリュームや迫力を出すことは多々あります。
しかし、極限までそぎ落として美しさを引き出すことはセンスだけでなく、思い切りのよさも必要とする技です。
モンドリアンの作品は、理解したり意味を見いだそうとしたりするものではないのかもしれません。
むしろ、意味や解釈は個々で異なっていいものでしょう。
ただ、見る人すべてが共通して感じることは「気持ちよさ」「爽快さ」ではないでしょうか。
だからこそモンドリアンのコンポジションは現在でもバッグや洋服などに使われ続けているのです。
おわりに
「よくわからない絵」には、知れば知るほど隠れた魅力がつまっています。
見る側が「なぜこれを描いたのだろう」「どんな人だったのだろう」という探求心を持っていれば「よくわからない絵」の魅力はますます大きくなるでしょう。
