世界最古の美術品はいったいどこにあるのでしょうか。
芸術の分野に携わる人であれば、きっと一度は考えるかもしれませんね。
そしてそれが、数万年以上も前に存在していることを知ったら、きっと驚き、どんなものなのかを知りたくなるのではないでしょうか。
ここでは、世界最古とされる美術、芸術について探っていきます。
世界最古の幾何学模様
世界最古の絵画はインドネシアのものと考えがちですが、実は、7万3000年前に南アフリカで出土した岩からすでに発見されたものがあります。
石は、ケープタウンより東に位置するブロンボス洞窟で見つかりました。
この洞窟はおよそ7万年前に塞がってしまったものが手つかずの状態で残っています。
この洞窟からは、初期のホモ・サピエンスの遺物が多く見つかっていて、狩猟・採集をしながら休息する場所として用いられていたようです。
この赤い粘土の塊には、幾何学模様が刻まれていて、他にも、何らかの象徴や装飾品のような遺物が、アフリカや中東のいくつかの場所で見つかっています。
研究チームも、これは世界最古の物語になるのではないか、と指摘しているのです。
これをアートと呼んでいいかどうかという点は残りますが、明らかに模様を描いています。
世界最古とされるネアンデルタール人の洞窟壁画
6万4000年以上前のスペインの洞窟、そこにも壁画があります。
赤い縦と横の線で、はしごのように見える絵が描かれたものです。
実は作者はホモ・サピエンスではなく、ネアンデルタール人ではないか、という説が強くあります。
これらの壁画は、彼らが最初にヨーロッパに到達する以前のアートでもあります。
従来、粗野なイメージがあるネアンデルタール人ですが、実は認知能力もホモ・サピエンスと変わらなかったと、研究チームは述べています。
インドネシアの物語を追う
南アフリカやスペインの壁画を考慮しなかった場合、一般的に世界最古とされるのはこのインドネシアの壁画です。
オーストラリア・クイーンズランド州の考古学者、グリフィス大学のMaxime Aubertらによって、インドネシア・スラウェシ島の鍾乳洞で発見されました、4万4000年前のものです。
スラウェシ島南部の「レアン・ブルシポン4」と呼ばれる洞窟で発見されたそれらは、おそらく“創造的芸術”という意味においては、人類史上最古のものでしょう。
劣化状態をみて、当初はせいぜい1万年前のものだろうと考えられていたほどですから、保存状態は良好。
わかりにくいイチジクの木の裏の入り口から入ることができるこの洞窟の壁画は、豪グリフィス大学の考古学チームが、学術誌ネイチャーに発表。
多くの洞窟が産業活動で破壊され、残存する洞窟絵画がほぼない中、その発見は学術的意味でも非常に貴重なものです。
「レアン・ブルシポン4」の洞窟の狩猟絵画は、島の住民の生業を誰かが記録したと考えられています。
描かれているのは、スラウェシ島独特の水牛「アノア」や、イノシシの一種、小さな人間らしき猟師たちの姿。
猟師の顔は長く突き出していて馬のようなもの、ひとりの猟師にはくちばしがあり、しっぽやブタの鼻のような動物としての特徴があります。
そのことから、体の一部が人間、一部は動物である半人半獣であり、一つの物語を表現しているとされています。
また、この画は、全長4.5mにわたって暗赤色のみで描かれ、現在も洞窟内を流れる水によって形が変化し続け、鉱物には微量のウランが含まれているのだとか。
神話や宗教の世界
対象動物は、まるで怪物かというほどの大きさ。通常の狩猟の様子ではなく、伝説としての一場面を描いたように見えます。
「レアン・ブルシポン4」の壁画は、宗教信仰に関する手がかりとして世界最古の頼りになる存在として調査チームが対応しています。
なぜなら、この壁画は人類の宗教の歴史を知るきっかけともなり、その発展性について貢献できる可能性もあるとされているからです。
そして、これまで未知であった半人半獣や巨大な野生動物などについて想像したり、説明をする必要があるからです。
そもそもこの壁画は谷底から20mもの高さの崖にある洞窟で、誰でもが簡単に見つけたり足を踏み入れられる場所ではありません。
これらの壁画上の物語は、神話や宗教を考える際に非常に興味深く、どのように認知能力を発展させたのかなど、学びが多々あります。
具象画として最古のもの
インドネシアの別の島、カリマンタン島では、世界最古の具象画として水牛の壁画が発見されています。
これは4億年前のもの、2番目に古いものは別の洞窟で発見されたイノシシの壁画で、3億5,400年前のものとされています。
スラウェシ島全土は、カルスト地形をしていて鍾乳洞が多々つくられていて、6億5,000年前~5億年前くらいまで古代人たちは、その鍾乳洞をシェルターとして使用していたようです。
それらは、現在においても芸術そのものであり、これまで絵画を発見できた洞窟はなんと242カ所もあります。
ですが、多くは(最近のレアン・ブルシポン4を含むまで)未調査で未記録のままのようです。
世界最古の洞窟壁画はこれからも発見される?
なぜ多くが未調査なのか?
考古学上の調査は時間と天候に大きく影響を受けるからです。
オーベールの調査チームは、スラウェシ島だけでなくより広い地域で洞窟の初期の絵画を探し続ける予定である、としています。
彼らは、レアン・ブルシポン4より採取した多くの岩石サンプルから年代測定を行う予定ですが、実際の結果は、もっと古い壁画である可能性が高いとしているのです。
何万年もかけて付着し続けてきた塗料が、はがれ落ち始めていることに考古学者が気付いたこともあり、調査は早急なものになることでしょう。
まとめ
今回は、世界最古とされる美術、芸術についてご紹介しました。
芸術、神話や物語の起源はヨーロッパである、というこれまでの想定を明確に崩し、未調査の洞窟はいまだ多くあります。
「まだ想像以上の未発見情報がアジアにはある」と、英国のサウサンプトン大学考古学者Alistair Pikeは告げています。
調査結果によっては、さらなる新発見がある可能性もあり、絵画愛好家にとっては楽しみが増えることになるかもしれませんね。