この記事では、入江泰吉記念奈良市写真美術館について紹介いたします。
仏像や寺院など日本の原風景や伝統文化が色濃く残る奈良。
その素晴らしさに何度も足を運んだという方も多いかもしれません。
奈良大和路の風景・文化財を写真に収め続け、その素晴らしさを改めて世に示してくれた写真家・入江泰吉の作品が見られる美術館が奈良県奈良市にあります。
奈良の歴史と文化を記録し続けた「入江泰吉」
入江泰吉は、1905年に奈良市で生まれ、長兄からベストコダック・カメラ(アメリカ・イーストマン社)を譲られたことがきっかけで、写真の道に進みます。
入江は1931年に大阪で写真店「光芸社」を開いた後、文楽人形を撮影した「春の文楽」で世界移動写真展一等賞を受賞します。
ですが1945年の大阪大空襲で自宅兼店舗が全焼してしまったことで、奈良へ戻りました。
同年、戦争の被害から免れるため疎開していた東大寺法華堂四天王像が奈良に戻ってくる様子を目撃しますが、その際にアメリカに四天王像が接収されるとの噂を耳にしたことで、それらを記録として写真に残すことを決意します。
以後、奈良大和路の風景や仏像など奈良の文化を自分の心の風景として約半世紀にわたり撮影し続けました。
晩年は万葉集を学び、花と人々の関わりに触れる「万葉の花」を手掛けています。
入江泰吉記念奈良市写真美術館では、入江泰吉のオリジナルプリント200点、フィルムなどの写真原板約8万点にも及ぶ全作品をコレクションしているほか、彼の愛用品、収集品も収蔵しています。
また2008年国登録有形文化財に指定された写真師・工藤利三郎のガラス原板1025点や、写真集「日本精華」等など貴重な資料も多数コレクションしています。
瓦葺き&ガラス張りのモダンな美術館
入江泰吉記念奈良市写真美術館では、入江泰吉の作品を保存・公開しているだけでなく、優れた写真作品や先進的な取り組みを行っている写真家を紹介しています。
また2年に一度「入江泰吉記念写真賞」を受賞した写真家の作品も展示しているそう。
さらに、作品鑑賞の場を提供するだけでなく、写真というメディアを支援する活動にも力を入れています。
美術館では「高畑デジタル写真倶楽部」というデジタルカメラ専門の写真講座を開いており、毎月館内にある講座室等を使って基礎から写真を学び、作品制作が行えるようです。
デジタル写真を基礎から学べる場所は意外と少ないので、貴重な取り組みですね。
美術館の建築を手掛けたのは黒川紀章氏。新薬師寺の隣という立地に留意し、建築の大部分は地下にある構造をしています。
建物の屋根は、古都奈良の風景を際立たせる瓦葺きですが、外壁はガラス張り。
外からは、透明なガラスの上に瓦葺の屋根が浮かんでいるように見える不思議な外観です。
和の佇まいでありながら、どこかモダンさも感じられる洗練されたつくりですね。
世界的に有名な黒川紀章氏が手掛けたということで、建築見学を兼ねて訪れる方も多いそう。
館内に入ると瓦葺の屋根からはイメージできませんが、より近代的なイメージのエントランスホールとカフェがあります。
1Fに展示室は無く、とてもゆったりとした雰囲気。
地下にある展示室Aと展示室Bでは、入江泰吉の作品をはじめ、優れた写真家の企画展を開催しています。
同じフロアには、写真専門の貸しギャラリーである「一般展示室」もあります。
入江泰吉に関する資料が気になるという方には「入江泰吉記念室」がおすすめ。
こちらでは入江泰吉が愛用していたカメラや収集品などを展示替えをしながら公開しています。
さらに「ハイビジョンギャラリー」と呼ばれる場所では、彼の作品をナレーションつきの映像で、季節ごとに内容を入れ替えながら随時上映しているそう。
また、展覧会鑑賞者以外でも利用できる「資料閲覧室」もあり、貴重な写真集や写真に関連する書籍などが誰でも閲覧できます。
合わせて鑑賞したい「入江泰吉旧居」
奈良市水門町にある「入江泰吉旧居」は、入江泰吉が戦後から亡くなるまで暮らした場所です。
2000年に入江泰吉の妻・ミツエさんが自宅を奈良市に寄贈したことから一般公開が始まりました。
入江はこの家で、日々生活を営みながら作品のイメージを固め、写真の現像まで行っていたそう。
書斎や万葉の植物を育てたという庭も現存しています。
小説家・志賀直哉や、画家の杉本健吉、随筆家である白洲正子など多くの著名人や文化人も訪れたとか!入江泰吉の作品の原点ともいえる場所ですね。
彼の美意識や思いが目に見える形で残る貴重な場所といえます。
アーティストの家やアトリエは覗いてみると、とても興味深い空間です。
もしアーティストがどんな生活を送っていたのか知りたい。
制作場所の雰囲気を感じてみたい!という方がいれば、ぜひ足を運んでみてくださいね。
自家製ケーキでひとやすみ
美術館1Fには、鑑賞の合間に一休みできる「カフェ・フルール」があり、綺麗なお庭を眺めながら休憩できるスペースとなっています。
中でも人気のメニューは自家製のオリジナルケーキセット。
口コミでも美味しいと評判です。美術館の建物自体が静かで落ち着いた場所にあるので、ゆったりとくつろげそうですね。
ミュージアムショップでは、入江泰吉の写真集や書籍、美術館オリジナルグッズ等が販売されています。
屋外にはステージもあり、催しが行われることも。
豊かな文化あふれる美術館界隈
美術館のある高畑地域は、大正から明治にかけて書画などに親しむ風流な人々が集まり、豊かな文化が育ってきた街です。
奈良の伝統的な町屋や洋館風のレトロモダンな建物、路傍の石仏など歴史的町並みが興味深い、とても素晴らしい場所。
近隣には、春日の杜、滝坂の道、国宝十二神将像をはじめとする多くの文化財を保存している「新薬師寺」や奈良三名椿の1つである「五色椿」、萩の寺としても有名な「白毫寺」もあります。
さらに著名な文豪、志賀直哉が住んでいた邸宅も保存・公開しているそうです。
美術館界隈をゆっくり散策しても、心地よい刺激と癒しがもらえそうですね。
おわりに
「入江泰吉記念奈良市写真美術館」を訪れる際には、近隣の街並みや文化施設、お寺などにも足を運ぶのがおすすめ。
入江泰吉が愛した奈良をのんびり歩くと、彼の写真がもつ新たな魅力に気づくかもしれません。
※休業日や営業時間、その他の掲載情報については変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、最新の情報については施設・店舗へお問い合わせください。
アクセス
美術館名 | 入江泰吉記念奈良市写真美術館 |
住所 | 奈良県奈良市高畑町600-1 |
電話番号 | 0742-22-9811 |
ホームページ | https://naracmp.jp/ |