この記事では、複数の見え方ができる不思議な絵、3点をご紹介します。
美術の魅力は「みる人の感性によって自由に解釈することができること」ではないでしょうか。
同じ絵でも、みる側の心の状態によってみえ方が2通りある不思議な絵もあるでしょう。
埋もれていく? 立ち向かっている?
ゴヤが描いた不思議な犬の絵のタイトルは「砂に埋もれる犬」です。
名前のままに受け取るならば、犬が砂に埋もれる直前を描いた作品になります。
たしかに犬は首まで砂に埋まり、さらに前から砂が流れ込んでいる絶望的な状況です。
この作品は、ゴヤの耳が聞こえなくなり、別荘に引きこもって作品を描いた14枚の「黒い絵」の中のひとつです。
「黒い絵」は画面全体が暗く、描いてある内容も残酷で怖いものばかりです。
「砂に埋もれる犬」は最後の14枚目に描かれた作品といわれていますが、14枚の中では画面に明るさがあります。
そして、他の作品は、明らかに残酷なシーンや具体的に怖いシーンが描かれているのに対し、「砂に埋もれる犬」は犬の表情がとぼけてみえる曖昧さがあります。
「この犬はゴヤ自身であり、ゴヤが絶望の中にいたことを表現している」という人もいるけれど、タイトルがなければ「砂の中を泳いで前に進んでいる」と受け取ることもできるのではないでしょうか。
「砂に埋もれる犬」は、どうしても埋もれている犬にだけ注目が集まります。
実は、この作品が描かれた当初は犬の前に崖と鳥がありました。
絵をよくみると、犬の前に色が濃くなっているシルエットがあります。
ゴヤは、ただ埋もれる犬を描いたのではなく「登れる崖や励ます鳥も描いていた」と考えることもできるのではないでしょうか。
「砂に埋もれる犬」というタイトルはゴヤ自身がつけたのではなく、あとから美術史家がつけたといわれています。
ゴヤはこの作品を70代半ばで描き、82歳でこの世を去りました。
この絵は「絶望」と「立ち向かう姿」の相反する見方ができる不思議な作品なのかもしれません。
ピンボケ? 匠の技?
スーラの作品は点描で表現されています。「グランド・ジャット島の日曜日の午後」も1mmほどの点が集まって絵になっているのです。
そのため、近くでみると点がハッキリと目に入り「ピンボケ? 」と思うかもしれません。
人々がたくさん描かれていますが、近くで見ると輪郭がぼやけて「日曜のゆったりとした午後を表現している」と感じます。
遠くに離れてみると点が重なり、近くでみたときと色味も変わってみえることに気がつくでしょう。
木々の葉は緑でもない黄色でもない中間色になり、自然らしさをより強く感じます。
実は、スーラは自分が絵の具を混ぜて色を作り出すのではなく、さまざまな色の点をキャンバスに置き、みる人の頭の中で色を混ぜさせる技法で描いています。
近くでみれば「ピンボケ? でもすごい」と感じられるし、遠くでみれば「微妙な色合いが表現できている匠の技」と感じられるでしょう。
この作品が発表された当時は、作品とみる人との距離が近すぎて「頭の中で色を混ぜる良さ」を伝えることができずに酷評されました。
しかし、距離さえとることができれば「近くで見る」と「遠くで見る」の2通りの楽しみ方ができる作品です。
ただ、この絵は縦が2mで横は3mの大きな作品です。
離れてみるだけの広いスペースを確保することが難しいかもしれません。
日の出? 日の入り?
印象派の始まりといわれているモネの代表作です。
ぼんやりとした白い画面は光があふれています。モネ自身が「印象を描いた」と言っている通り、光が刻々と変化する様子を見事に表現している作品です。
現在は「印象・日の出」というタイトルですが、1878年のカタログには「日の入り」と記載されていました。
日の出は「太陽が出る朝」であり、日の入りは「太陽が沈む夕方」です。
太陽が出る朝だと思って作品をみれば、海に浮かぶ船に活気を感じます。
逆に夕方だと思ってみれば、漁を終えて帰る静かな作品にみえるでしょう。
例えば、心の状態がやる気に満ちて出発する前ならば「日の出」にみえるかもしれません。
大きな仕事を終えて心が静かな状態でみれば「日の入り」にみえるかもしれません。
その後、太陽の位置や場所から科学的に検証され「午前7時半ごろの様子を描いた」ということになり「日の出」が正しいということになりました。
また、この作品には、ちょっとした秘密があります。
「印象・日の出」は、白い画面の中に真っ赤な太陽がとても目立ちます。
しかし、モノクロでコピーをすると不思議と太陽がほとんど目立たなくなるのです。
一見、背景の白はとても明るく太陽は濃い色にみえますが、実は明るさで比べればふたつの色はほぼ同じなため、コピーすると太陽は背景と似たグレーになります。
太陽が目立つ「印象・日の出」とモノクロで太陽が消えた「印象・日の出」の2通りの見方もできるのです。
「印象・日の出」は、科学的に検証されて「日の出が正しい」という結論になりましたが、例えみる人が「日の入り」として解釈しても、それは自由です。
まとめ|不思議な絵
同じ絵でも、みる人によって意味や見方は全く変わります。
絵の見え方は、タイトルによって大きく左右されることもありますが、逆もありえます。
感性を解放し、新たな不思議な絵の発見をしてみてはいかがでしょうか。