よく耳にする「ポップアート」は、大量生産・大量消費社会をテーマとしています。
「第2次世界大戦」後、世の中は大量生産という生活へシフトし、人々はそれらを受け入れて、どんどん消費するようになっていきました。
そんな中、イギリスで始まったのが「ポップアート」です。「ポップ」(大衆文化)は、「万人向きであり、使い捨て感覚で短期間に用いられる「お金のかからないもの」として定義され、1960年頃には全盛期を迎えました。
今回は、現代美術の芸術運動のひとつである、そんな「ポップアート」の世界を覗いてみましょう。
アメリカでも「ポップアート」が栄えた背景
アメリカでは当初、「ポップアート」は批判的でした。
イギリス人には先進的であると期待された文化が、アメリカ人にとっては「キッシュ」(ドイツ語で・安っぽい)とされたのです。
そうした中で、ジャスパー・ジョーンズとロバート・ラウシェンバーグの二人が登場し、廃物やがらくたを利用した作品を作成、抽象表現主義に対抗しました。
アメリカ国旗をモチーフとしたジョーンズの『旗』が一躍有名になって以降、抽象表現主義は淘汰されていき、「ポップアート」は様々なアーテイストによって表現されるようになっていきました。
伝統的な芸術に反発しているという意味において、ダダイズムとの類似性もあります。
“既成の芸術概念を否定し、新しい作品を生み出す美術分野”とされる「ポップアート」は、全盛期を過ぎた今も、創り続けられているのを見かけることができます。
私たちの身の回りのリアルな生活や社会が芸術として誕生したということは、実に興味深いですね。
代表的、あるいは面白い「ポップアート」を紹介
ジャスパー・ジョーンズ『旗』(1955年)
エンカウスティーク油彩作品。この作品は米軍の兵役を終えて帰国、2年後にジョーンズが24歳になったときに制作されたものです。
アメリカン・ドリームに触発されたジョーンズの最も有名な作品であり、彼の最初期のものです。
シンプルかつわかりやすい幾何学デザインは、アメリカらしく、誰でも知っている国旗を用いることで象徴的な意味合いをも込めています。また、誰もが見てもすぐわかる題材にすることで、思想や主張を織り込んでいます。
新聞の切り抜きが利用されていますが、それらはほとんどが広告欄を利用されているのだとか。
ロイ・リキテンシュタイン『ヘアリボンの少女』(1965年)
インスピレーションの源泉は主に新聞に描かれた大衆漫画であり、少女がモデルの人物画は、一目瞭然、とても漫画チックです。
単純な線や色彩においてさえも、ユーモラスな漫画(コミック)そのものです。
子どもでも瞬時で理解のできる視覚情報(絵)を用いて、抽象化しています。
これまでは、媒体であるアート作品の奥に込められた意味やメッセージを「読み取る」必要があったのですが、「ポップアート」は、それを全く期待していません。
あえて漫画性を強調していて、あえて読み取る必要のないことに重きをおいた「絵」なのかもしれませんね。
アンディ・ウォーホル『マリリンモンロー』(1962年)
実は、アンディ・ウォーホルの作品を通じてマリリン・モンローを知ることになった若者も多く存在しているようです。
同じものを何枚もキャンバスに刷るというスクリーン印刷を用いたアートですが、これは、アメリカに対する皮肉とも受け取れる作品となりました。
なぜなら、その頃のアメリカは大量生産、大量消費を豊かさの象徴と捉えていたからです。
彼は、マス・メディアによって記号化された虚像としてのマリリン・モンローをそのまま作品の形にしています。
そしてそれは定義付けされたセクシーさの見本として、勝手に独り歩きをしている様子を捉えているかのようです。
古賀春江『海』(1929年)
作品の時代を見てもわかるように、日本の古賀春江は「ポップアート」の先駆者的人材ともいわれています。
「はるえ」と読みますが、作者は男性であり、福島の原発事故を思い起こさせる彼の代表作です。
ですが、この時期は関東大震災から6年を経たときのもの。
画像背景とは一見無関係に感じられる手前で大きく立つ女性は、水着を着ていて靴を履き、不可思議な赤い帽子をかぶっています。
手の指先は天に、足指先は下に向かっていて、天と地を貫くイメージも漂わせています。人間と工場のあり方、おかしな世の中を垣間見ることができます。
まるで、ボタンを掛け違えたかのような魅力ある作風です。
キース・ヘリング『Radiant Baby(光輝く赤ん坊)』(1982年)
ユニクロのTシャツ他、多くのブランドとのコラボで知られるキース・ヘリングの作品は、一度見たら忘れられないインパクトがありますね。
ニューヨークの地下鉄の駅に侵入して描いたことからスタートしたという彼の作品は、斬新で目を引くこともあり、すぐにニューヨーカーたちの間で評判になりました。
つまり彼は、ストリートアーティストだったのです。
キース・ヘリングは、1988年にAIDS(エイズ)と診断されてから31歳で亡くなるという短命ではありましたが、社会貢献活動に積極的だったことで、とてもよく知られています。
この作品は、最も有名なものの一つとされていますが、光り輝く赤ちゃんが這い這いをしていますよ。
力強いタッチと鮮やかなカラーで、赤ちゃんが喜びに溢れた存在であることが伝わってきますね。
まとめ
「ポップアート」が流行したのは1950年代から1960年代ですが、現在眺めても新鮮そのものです。
「何気ない日常」の場面から生み出された作品の数々は、表現力に富み、実に斬新かつ、シンプルです。
絵画を見る際の私たちの視点は「ポップアート」により増えていき、またさらに時代とともに変化するアートの世界が楽しくも面白くもあることが理解できるのではないでしょうか。
時代を生きたアーティストたちの才能に拍手を送りたいものですね。