土門拳記念館は、作家1人のみを取り扱う世界的にみても貴重な写真専門の美術館です。
2009年には「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で2つ星を獲得。
園内は、豊かな自然にあふれ、全国有数の紫陽花の名所としても知られており、何度でも足を運びたくなる場所です。
報道写真家・土門拳とは?
土門拳は、山形県酒田市出身の昭和を代表する報道写真家です。
彼は「現実の世界」を写すことに徹底してこだわったことで知られています。
時代を象徴するような出来事や、日本の伝統文化を自らの感性により鋭く切り取った写真が特徴。
土門拳の生涯の仕事ともいえる連作「古寺巡礼」はおよそ40年かけて日本全国100か所以上のお寺を巡り、撮影された写真。
途中、病により車椅子に乗りながらも撮影し続け、ついに1963年に第1集が完成、1975年には第5集が刊行されました。
また、土門拳の写真は人々の生活や心の内を偽りなく写した、観る人の心に迫るようなものが数多くあるように思います。
その1つは「筑豊のこどもたち」という写真集です。
社会の移り変わりによって失業に苦しむ人々とその子供たち、必死に生きる労働者を取材し、あえて上等の紙ではないザラ紙に印刷し、定価100円で発行されました。
これは10万部を超すベストセラーになり、社会に大きな反響をもたらしました。
さらに、1958年に刊行された「ヒロシマ」は、日本だけでなく海外にも影響を及ぼした1冊。
原爆投下から12年後に広島を訪れた土門拳は、原爆被害の深刻さに目を背けずに広島に通い続け、被爆者たちの日々を鮮明に記録しています。
さらに10年後には、原爆後遺症のありのままの現実を撮影した「憎悪と失意の日日−ヒロシマはつづいている」を発表。
これらの功績が認められ、1974年には、酒田市名誉市民第1号となりました。
土門拳の寄贈によりスタートした記念館
土門拳記念館は、土門拳が自らの約7万点にも及ぶ全ての作品を生まれ故郷の酒田市に寄贈したいと語ったことにはじまり、1983年にスタートしました。
土門拳記念館は、自然豊かな飯森山公園の中にあります。
ここは建物の前面に白鳥池(拳湖)があり、鳥海山を臨める美しい場所です。
建築を手掛けたのはニューヨーク近代美術館新館の設計も行った谷口吉生氏。
谷口氏によると、美しい景観と記念館の建物が調和し、さらに土門拳の作品世界を引き立てるようなものを目指したそう。
確かに、土門拳の静謐で、真に迫るような世界観を味わうには絶好の場所です。
館内にある主要展示室では、主に土門拳の大作を鑑賞することができます。
展示室内には、ゆったりとしたサイズの座り心地の良いソファもあり、リラックスしながら時間をかけて作品を楽しめます。
企画展示室1と企画展示室2では、土門拳の写真作品以外にも、他の作家の作品が展示されていることも。
毎年、毎日新聞社主催の土門拳賞受賞作品展なども行われています。
この賞は、リアリズム(事物をありのままに写しだすこと)写真を確立した土門拳の業績をたたえて、1981年に設立された権威ある写真賞だそう。
7万点にも及ぶコレクションと愛蔵品の数々
記念館には土門拳の写真だけでなく、彼の愛用品の数々も展示されています。
カメラなど制作活動で使われたものや愛用の陶印、指輪なども!
作家の愛用品や表現活動で使われたものを実際に見ると、作家の気配を感じられるようで作品に親しみが湧いてきますね。
展示会場は年に3〜4回作品の入れ替えを行い、さまざまな写真作品を公開しています。
7万点にも及ぶコレクション、来るたびに違った作品が観れるのも嬉しいところ。
記念館HPでは、土門拳が雑誌やテレビなどのメディアに取り上げられた際の情報や、他文化施設で行われる土門拳関連の展示情報などを紹介しています。
また、館内ではコンサートが開かれることもあります。
入館料だけで参加できるそうなので、開催日を事前にHPでチェックして訪れるのもおすすめです。
そして、もう1つの見どころは敷地内に咲くハス。
このハスは、岩手県中尊寺に咲く古代ハスから株分けされ、酒田市で育てられたものです。
なんと、このハスの種子は岩手県にある金色堂で藤原四代泰衡の「首桶」から発見されたもの。
およそ800年の眠りから覚めて無事に花開いたありがたいハスです。
来館の際にはぜひ、観てみてくださいね!
親交のあった名だたる芸術家たちの作品
土門拳は、優しい人柄から生前さまざまな芸術家たちとの交友関係にも恵まれていました。
親交のあった芸術家たちは、この記念館を創設するにあたり、自らの作品を寄贈してくれたそう。
まず、白鳥池(拳湖)の銘石。
これは国語の教科書にも掲載されている有名な詩人・草野心平氏によるものです。
入口正面にある銘板とポスター、チケットをデザインしたのは、グラフィックデザイナーの亀倉雄策氏。
彼は、東京オリンピックのポスターや大阪万博ポスター等も手がけています。
土門拳記念館中庭にはベンチと彫刻がありますが、こちらは彫刻家イサム・ノグチ氏の作品。
照明器具や庭園、抽象的な石の彫刻作品では世界的に有名な方で、さまざまな美術館に彼の作品が収蔵されています。
企画展示室2から見える美しい庭園・オブジェ「流れ」は華道草月流三代目家元勅使河原宏氏が創作しました。
どの芸術家も後世に名を残す人物ばかり。ぜひチェックしておきたいところです。
書籍は必見!ミュージアム・ショップ
土門拳記念館ミュージアム・ショップでは、土門拳の作品をモチーフとしたエコバッグ、ステーショナリーなどのオリジナル商品を多数取り扱っています。
もちろん、写真集やエッセイ、図録など土門拳関連の書籍も充実しています。
写真界屈指の名文家としても知られる土門拳のエッセイは、一読することをおすすめします。
展覧会鑑賞の感動が蘇ってきますし、写真のもつ可能性や彼の素晴らしい感性に心打たれますよ。
注目のオリジナルグッズは、土門拳カレンダーと過去に出版した写真集の題字をプリントした「タイトル」という手ぬぐい。
カレンダーはデスクの上に置いておくと、ふとしたときに心が和んだり、引き締まったり。これは、上質な作品だからこそですね。
手ぬぐいには、作家が作品の雰囲気を壊さぬようこだわり抜いた題字がプリントされていて、ファンにはたまりません。
おわりに
土門拳は、「日本の文化」「偽りのない歴史」を後世に伝えるために生涯を捧げた写真家です。
アートや写真だけではなく、さまざまな分野の人々にも影響を与えました。
また、記念館の特徴である四季折々の自然も魅力。
春に咲く八重桜や藤、梅雨の紫陽花、冬は雪景色と自然に触れながら彼の写真の世界にゆっくり浸ってみてくださいね。
※休業日や営業時間、その他の掲載情報については変更の可能性があります。日々状況が変化しておりますので、最新の情報については施設・店舗へお問い合わせください。
アクセス
美術館名 | 土門拳記念館 |
住所 | 山形県酒田市飯森山2-13(飯森山公園内) |
電話番号 | 0234-31-0028 |
ホームページ | http://www.domonken-kinenkan.jp/ |