この記事では、みているだけで笑顔になれる、子どもの絵を紹介いたします。
笑顔になれるというよりも「子どもの魅力を引き出した絵が描ける画家」という方が近いのかもしれません。
子どものかわいらしさは、動きや声が伴うことで感じられるものです。
紹介する作品は動きがなくても動きを感じ、声がなくても声や息づかいが聞こえてくるような作品ばかりです。
「座るジョルジェット・シャルパンティエ嬢」オーギュスト・ルノワール
ルノワールは、多くの肖像画を描いています。
中でも有名な一枚が「座るジョルジェット・シャルパンティエ嬢」です。
ふっくらとした女の子が大きなイスに座って足を組んでいます。
肖像画のモデルは、貴族などの身分が高い人がほとんどでした。
しかし、この作品が描かれたころはブルジョワ階級が増え、庶民であっても肖像画を依頼する人が増えていたのです。
モデルになっているジョルジェットもブルジョワ家庭の子どもでした。
ルノワールは、ジョルジェットのかわいらしさに惹かれます。
より子どもらしいかわいらしさを表現するために、ルノワールの視点を「モデルよりも上」にもってきたのです。
上から子どもをみることで、子どもの小さいかわいらしさ、子どもの上向きの視線を絵で表現することができました。
身分の高い人がモデルの場合は、モデルが画家よりも高い位置に座るため下から見上げるような視点で描かれます。
例え、子どもがモデルでも下から見上げた構図の絵ではかわいらしさの表現は難しかったのではないでしょうか。
また、背景の色をグッと暗くすることで、ジョルジェット嬢の白い肌が浮き立ってみえます。
大きなイスに足を組んで座る「おませな座り方」にも思わず笑みがこぼれます。
こちらから購入も可能です。
「麗子肖像(麗子五歳之像)」岸田劉生
岸田劉生の、子どもの絵といえば「麗子像」が有名です。
口を凛ととじて微笑む姿は、子どもらしいかわいさというよりは大人びた表情にみえます。
「麗子像」は重要文化財に指定された作品ですが「家に飾りたいかわいい絵」とは違うかもしれません。
麗子は、岸田劉生の長女です。
小さいころから絵のモデルをしていました。
そのほとんどは右横をむいている構図で、表情は口をとじて凛としています。
ただ、岸田劉生が麗子を初めて描いたと言われている麗子が五歳(実際は四歳半)の肖像だけは正面を向いています。
口をとじて凛とした表情ではなく、手に一輪の花を持ってこちらの様子をうかがっているような自然な表情です。
頬は日に焼けたように小麦色で子どもらしくふっくらとしています。
思わず「こういう子いるよね」と微笑みたくなる作品です。
「麗子肖像(麗子五歳之像)」はオレンジ色の背景に縁がついた青色の背景が重なっています。
つまり、岸田劉生は麗子の実物をみながら描いたのではなく、青い背景の麗子の絵をさらに描いたことになります。
オレンジ色の背景にはヒビまで描きこまれ、石造りの壁にもみえるのです。
この作品は、オレンジ色の背景まで含めてみていると麗子が平面的にみえ、青い背景部分だけをトリミングしてみると麗子が立体的にみえます。
麗子の子どもらしいかわいさを重視するならば、あえて青い背景部分だけをトリミングして額装してもいいのではないでしょうか。
「窓ガラスに絵を描く少女」いわさきちひろ
いわさきちひろの作品は、にじみを使った淡くやさしい絵です。
描くものは子どもで、根強いファンもたくさんいます。
「窓ガラスに絵を描く少女」は、画面の中央で、子どもの少女が指を使って絵を描いています。
上から下まで水がたれたような跡があり、まるで雨がガラスを伝っているようにも見えるのです。
さらに、少女の足まで描かないことで室内と外気の温度差によって結露が発生しているようにも感じます。
絵を見る人は、ガラスの外にあり室内で絵を描いている少女を外からのぞき見しているような感覚になるのです。
思わず見る側が「かわいいな」と笑顔になる状況ではないでしょうか。
いわさきちひろの作品は美術館では、木製の額に白い大きなマットをあわせて展示されています。
いわさきちひろの作品は色が淡く薄いため、色が濃い重厚な額装をしてしまうと作品が引き立ちません。
スッキリとした額装が、和室にも洋室にも、そして子ども部屋にも合うでしょう。
番外編:絵本「よるくま」の酒井駒子
酒井駒子は、1966年生まれの絵本作家です。
代表作「よるくま」は、ちいさな男の子がちいさな熊と一緒に熊のお母さんを探すおはなしです。
子どもの表情もかわいいのですが、ちいさな熊の表情もまるで人間の子どものように豊かでかわいらしい絵となっています。
酒井駒子は、子どもの絵をたくさん描いています。
いわさきちひろの作風とは異なり、油絵を思わせる重厚な描き方です。
2005年の「金曜日の砂糖ちゃん」は絵本の挿絵というよりも一枚一枚が絵画のように描かれています。
東京芸術大学美術学部卒業というずば抜けたデッサン力は、子どものなにげない一瞬の表情をとらえ、写真以上の子どもらしさが絵によって伝わってきます。