美術の世界では「美術や芸術をやっている人は個性が強い」「ちょっと変わっている」とよく言われます。
美術の世界に入ってから長くなればなるほど「美術の常識」が自分の常識になり、それらの言葉の意味がわからなくなりつつあります。
しかし、美術を始めた直後は「美術の常識」に驚いたりこわくなったりすることがよくあります。
この記事では「美術の世界では常識だけど一般的にはあり得ない」と思えるエピソードをご紹介いたします。
美術の世界|木炭デッサンの消しゴムはアレ
美術大学受験を目指すほとんどの人は美大受験予備校に通います。
アトリエではデッサンや絵の具を使った絵を描くのですが、最初は木炭デッサンを習います。
木炭は、木を燃やして炭にした棒状の画材です。
木炭紙という木炭デッサン専用の紙に木炭の粉をつけることで絵を描きます。
消すときには消しゴムは使いません。
消しゴムのかわりに食パンを使います。
食パンの白い部分を紙にあてて木炭の粉を吸着させます。
少し消すときには、やわらかい状態で使い、しっかりと消したいときには食パンをギュッとつぶして消しゴムのように使います。
やわらかい食パンは使いやすく、固くなってきた食パンはボロボロと崩れて使い物になりません。
食パンの選び方にもポイントがあります。
高級なバターたっぷりの食パンは不向きです。木炭紙にバターが浸み込んでしまい、絵が台無しになってしまいます。
できるだけ安く、いつまでもやわらかく日持ちする食パンが木炭デッサンにはむいています。
美術の世界|昔の高価な黄色い絵の具にはアレがある
絵の具にはクロムイエローやカドミウムイエローのように化学物質の名前が頭についているものがあります。
そして、絵の具のチューブをよくみてみると、裏には「有毒性」と書いてあることがあります。
クロムイエローもカドミウムイエローも「有毒性」の表示があります。
ゴッホの鮮やかな黄色はクロムイエローといわれています。
絵の具は、色によって値段が違うものがあります。
美術大学の学生は、限られたお金で画材を購入しなければならないため、あまりにも高価な絵の具にはなかなか手が出ません。
実は、高価な絵の具ほど「有毒性」のマークが高レベルになる傾向があります。
「お金がないから高価な絵の具が買えない」ということが、実は有毒性の高い絵の具を遠ざけてくれていたのです。
「絵の具によっては毒がある」という事実を知ったときには、とても驚きました。
木炭デッサンは、完成したら木炭を定着させるスプレーをします。
このスプレーもアトリエで一斉に使用するとアトリエ内は霧が立ち込めたかのように真っ白になるのです。
最初のうちは「換気しないと」と思うのですが、徐々に「このにおいをかぐとデッサン終了と実感できるわね」と思うようになっていました。
美術の世界|美術大学卒業でも絵がアレな人がいる
「美術大学を卒業した人はすべて絵がうまい」と思っている人は多いのではないでしょうか。
実は、絵が描けない人や絵が苦手な人でも美術大学に入学し、卒業できることも美術の世界では常識です。
美術大学には、絵を実際に描く科もあれば美術の研究をする科もあります。
また、絵やデザインをする人たちをプロデュースするために広く浅く知識を蓄える科もあるのです。
そういう専攻をした学生は、自分自身は絵が苦手であったり下手であったりしても美術大学に入学し卒業することができます。
美術大学は、絵が描ける人だけでなく絵が好きな人や美術を愛する同士が欲しい人ならば受け入れる器を持っています。
美術大学卒業の人は「似顔絵描いて」や「鉛筆デッサンちょうだい」と言われることがあります。
しかし専攻や科によっては「絵が苦手な人」もたくさんいるのです。
ちょっと寂しい思いをする美術の世界の常識、みんなの非常識かもしれません。
みんなの常識が自分の常識であるときには、まだ美術の世界に入り込んではいないのかもしれません。
おわりに
絵の具の有毒性については現在ではさほど心配することはないといわれています。
しかし手についた絵の具はきれいに洗い、むやみに排水口に流さないようにしましょう。
マナーについては、どこでも昔も現在も変わりはありません。