鳥獣戯画は一枚の絵画ではなく4巻で構成された合計44mの巻物の作品で、はじからみていくと絵にストーリーがあり、マンガのように読み進めることができます。
鳥獣戯画は、800年以上前の平安時代から鎌倉時代にかけて描かれた、国宝に指定されている絵巻物です。
よく教科書に掲載されているサルを追いかけるウサギとカエルの絵やカエルとウサギが相撲をとっている絵は巻物の一部です。
鳥獣戯画は4巻で構成され、それぞれの巻に特徴があります。
今回は、それぞれの巻ごとに解説いたします。
鳥獣戯画の巻物を紹介
甲巻
甲巻は、鳥獣戯画の中でも一番有名です。
甲巻は前半と後半で紙の質が変わります。
前半に使われている紙は質が高い杉原紙ですが、後半は使用済みの杉原紙を作りなおした紙です。
また、前半と後半とでは絵の描き方が異なるため、甲巻は少なくても2人以上の人間が描いた可能性があります。
内容は、11種類の動物が登場し、擬人化された動物たちによって人間の行事や遊びがあらわされています。
乙巻
乙巻は、動物が擬人化されていません。
前半は、人間となじみのある動物が淡々と描かれていますが、後半は架空の動物や日本にはいない動物が登場しています。
甲巻後半の紙と同じ紙が使用されているため、甲巻後半を描いた人が乙巻を描いたとも言われています。
甲巻では、流れるようなストーリーがありましたが、乙巻はストーリーがあるとは思えず、一枚の絵が図鑑のようにつながったような構成になっています。
丙巻
丙巻は、もともと一枚の絵巻物ではなく、表に人物が描かれ、裏に動物が描かれた表と裏のある絵でした。
その一枚の絵を丁寧に表と裏をはおろしてつなぎあわせたものが丙巻になります。
人物と動物の画風は異なるため、人物(表)と動物(裏)は違う人が描いたと考えられています。
内容は、人物が将棋を指したり、動物は擬人化されて競馬や蹴鞠をしています。
蹴鞠が描かれている点や描き方から平安時代の作品である可能性が高い巻です。
丁巻
丁巻は、人物だけが描かれています。
甲乙丙巻よりも筆の使い方が大胆で書かれている人物も大きい特徴があります。
鳥獣戯画のすごさ!とは
鳥獣戯画は、マンガのように絵がストーリーのように展開しています。
現代のマンガは、絵と吹き出しのセリフでストーリー展開を読むことができますが、鳥獣戯画には吹き出しのセリフがありません。
ストーリーを説明する文章(詩書)が一切使われず、絵の動きだけでストーリー展開を読み手に理解させる技がすごいところです。
さらに鳥獣戯画を描いた人のデッサン力は目を見張るものがあります。
鳥獣戯画は、動物を擬人化して描いています。
デッサン力がない人が動物を擬人化して描くと違和感がでるものです。
しかし、鳥獣戯画に登場する動物のサイズ感は非現実的であるにもかかわらず、違和感がありません。
例えば、ウサギとカエルが相撲をとっている絵では、ウサギがカエルを抱えています。
実際のカエルはウサギよりもずっと小さいはずなのに、描かれているカエルはウサギとほぼ同じ大きさです。
擬人化されたウサギやカエルは日本の足で立って歩いています。
これも実際にはあり得ない光景ですが、骨格や関節の動きがしなやかで違和感はありません。
優れたデッサン力が、あり得ない状況を「さも現実」のようにみせています。
鳥獣戯画は誰が何のために描いたのか
鳥獣戯画の作者はわかっていません。
天台宗の僧侶「鳥羽僧正覚猷」が描いたと考えられていましたが、今は絵師や絵仏師が描いたという説が有力です。
さらに鳥獣戯画は、異なる画風の絵で構成されています。
この画風が少なくても5種類以上あることから5人以上の描き手で書かれている可能性が高いでしょう。
鳥獣戯画が何のために描かれたのかもまだわかっていません。
平安時代の「嗚呼絵(おこえ)」の流れともいわれています。
「嗚呼絵」の「おこ」とは「ばかげた」という意味です。
たしかに「日本最初のマンガ」といわれる鳥獣戯画がマンガのような娯楽目的で描かれた可能性は否定できないでしょう。
ただ、公に広げたり売られたりすることを目的とはしていなかったようです。
なぜならば、鳥獣戯画に使われている杉原紙はとても薄く、保存が目的の絵巻に使われる紙ではないからです。
さらに墨で描くときには「打紙」といって、紙を打って表面をなめらかにします。
表面をなめらかにすると墨の吸収量が減ってにじまなくなるのです。
しかし、鳥獣戯画が描かれている紙は打紙処理がされていません。
その場にあった紙にサラリと描いた雰囲気が鳥獣戯画にはあります。
おわりに
鳥獣戯画は、初めてのマンガともいわれ時代を超えた魅力と謎がつまっています。
鳥獣戯画が好きな人には、その後に描かれた絵巻もおすすめです。
明治時代には田崎草雲が鳥獣戯画を描いています。
色がついていて平安時代の鳥獣戯画よりもモダンな作品です。
最近は、ディック・ブルーナのミッフィーと鳥獣戯画のコラボ作品も登場しています。