見返り美人は、数ある日本画のなかでも、特に人気があるのではないでしょうか。
女性が後ろを振り返ったときの姿を描いたものになり、なんとも言えない魅力がありますよね。
芸術に詳しくない人でも、一度は見返り美人図を見たことがあると思います。
そもそも見返り美人はどうして描かれるようになったのでしょうか。
また、見返り美人の有名な作品についても、紹介していきたいと思います。
見返り美人ならではの面白さに触れてみませんか。
見返り美人とは?
見返り美人を、誰もが知っている有名な作品にしたのは「菱川師宣(ひしかわもろのぶ)」だと言われています。
意外と知られていないかもしれませんが、浮世絵の先人を切った人物とも呼ばれた人物になります。
見返り美人について説明するうえで、まず浮世絵の文化についても知っておかなくてはいけません。
浮世絵自体は、江戸時代に誕生しました。
当時、井原西鶴の畫いた「浮世絵草紙」という小説がきっかけになり、浮世絵が誕生したと考えられています。
現在では「浮世絵」と言いますが、昔は「憂世」と表されていたと言われています。
この憂世は仏教の世界のなかで生まれた言葉です。
極楽浄土の世界とは違い、この世は辛く悲しいことも多い世の中であることを「憂世」であると考えられていました。
どちらかというと暗い意味を持つ言葉として伝えられてきました。
その後、快楽を求める気持ちやもっと気楽に過ごしていきたいという人々の想い(願い)から、浮世に変わっていったと考えられています。
見返り美人図が庶民の間にも広まった理由
もともとは高貴な人の間で楽しまれていましたが、そのときの流行を描くものに変わっていきます。
庶民の関心を惹いたのは芝居などの娯楽をテーマにした浮世絵です。
「寛文年間(1661年)」になると、見返り美人図が大ブームになりました。
今までは家のなかに飾る絵は神仏や仙人などの尊敬する対象を描くものでした。
見返り美人図を床の間などに飾る家も増え、多くの家で見かけるものとなります。
この見返り美人図の題材となったのは舞妓さんや、遊女などになり、なかでも吉原遊廓は多く描かれていたようです。
当時の見返り美人図は主に1人の女性のみを描く作品がメインとなっていきます。
それ以前は、女性が集う姿を描いたものがメインの時代から変化していきます。
これは依頼主の希望によるものが大きかったようで、そこから見返り美人が生まれたと考えられています。
見返り美人は、菱川師宣が筆を使い丁寧に畫いた肉筆の浮世絵として現在に伝えられています。
浮世絵師はたくさんいますし、菱川師宣よりも著名な人も存在します。
ただ、見返り美人は、他の浮世絵師には描けない菱川師宣だからこその作品だと思います。
ちなみに、見返り美人は、東京の上野にある「東京国立博物館」に収蔵されています。
常設展示ではないので、いついっても見られるものではありませんが、特別展などで本物の見返り美人を見られる機会もあると思います。
時代を超えて愛される菱川師宣の作品を一度見てみたいものですね。
見返り美人の魅力を知ろう
見返り美人については、好きだと話す人と逆にちょっと苦手と話す人がいると思います。
女性に対しての美しい基準は人それぞれなのもあり、絵のテイストが苦手な人も少なくありません。
とはいえ、見返り美人ならではの楽しみ方もあるので、ご紹介したいと思います。
時代のトレンドを読み解くことができる
見返り美人を見ると、その時代のトレンドを読み解くこともでき、女性がどんなものに興味関心を持っていたのか、流行していたのかがわかるのも、美人画の面白さです。
現在であればこういった流行はメディアを通して発信していますが、当時にはそんなものはありません。
女性としての素晴らしさをを浮世絵として描くことで、どんな服装や髪型をしていたのかなども見えてきます。
ちなみに当時の美人画には名前が書かれているのが基本です。
菱川師宣の見返り美人は、名前が書かれていません。
このことからもわかるように、見返り美人は特定の人物に対して畫いたものではなく、当時流行っていた服装を描きたかったとも言われています。
確かに菱川師宣の作品を見ると、洋服をメインに描かれているのがわかります。
ポーズに隠された意外な理由
見返り美人は、女性が後ろをちょっと振り返っている姿を畫いています。
ただ、この姿勢についてかなり無理があるのでは?という見解が多いのです。
実際にあの絵のように首を後ろに持っていくことは、相当体が柔らかい人でもできません。
本来は後ろ姿を描きたかったものの、あの横顔を入れることによってより印象的な作品に仕上げたと考えられています。
菱川師宣はこのポーズが実際にはできないことを知っていて、意識付けを目的にあのポーズを描いたと考えられています。
女性を真ん中に描き、余白の部分を多くしたことによって視線を真ん中に集めるようにも工夫されています。
単調な絵の用に見えて、実は、計算しつくされている作品でもあるのです。
髪型は玉結びで高貴な女性である
見返り美人を見ると、特徴的な髪型をしていることに気付くのではないでしょうか。
髪の毛の先端を丸めているのは「玉結び」と呼ばれる方法です。
さらに髪をまとめているのは、当時高級品として知られたべっ甲であるなど、富裕層に多い洋服や髪型を描いたものだと言われています。
当時、女性の間で流行した髪型でもあり、他の浮世絵にも見られる吹前髪などの特徴もあります。
真っ黒の美しい髪を下ろしたスタイルが、女性らしさを演出していますね。
髪型を見るだけでも時代がわかるのは面白いですね。
着物がおしゃれでハイセンス
見返り美人で着ている着物は、当時流行した「緋色(赤)」と呼ばれるものです。
少し落ち着いた赤になり、華やかさも感じられます。
この着物には大きな花柄が描かれ、「花の丸」が確認できます。桜と菊の両方を合わせて描いたものになり、美しい花柄が印象的です。
また見返り美人の主役は着物の帯だとする説もあります。
大きな結び方をしていますが、これは吉弥結びと呼ばれるものです。
舞台で使われていた結び方になり、そこからあっという間に流行したと言われています。
この当時は、歌舞伎のスターはアイドル的な存在になり、若い女性のみならず、憧れていたのがわかります。
細部にまでこだわり抜いて描かれている作品ですが、全部が当時の最先端のものばかりです。
これを描いたのが菱川師宣という男性浮世絵師と考えると、すごいことだなと感じます。
当時の女性について知り尽くして作られた作品です。
ちなみに見返り美人は菱川師宣が晩年に描いた作品だと言われています。
まとめ
見返り美人は、当時(江戸時代初期)ならではのファッションや髪型、ヘアアクセサリーなどのすべてをまとめて描いた菱川師宣の作品です。
そのためたった1枚の絵から、当時の女性のおしゃれを読み解くことのできる、とても奥深い作品だと思います。
今のように写真やTVなどがなかった時代に、絵をかくことで女性のありのままの姿を描いたのも、見返り美人の魅力だと思います。
あえて一人だけを描いたことでより印象強くイメージが残ります。
たくさんの見所が多い作品ですし、じっくりと堪能してみてはいかがでしょうか。
女性を描いた作品のなかでも、細部まで描いたまるで写真のようにも見えるのも魅力的ではないでしょうか。