美術のジャンルの一つに「アウトサイダー・アート」と呼ばれるものがあります。
そもそもアウトサイダー・アートってどんなものなのか、知らない人も多いのではないでしょうか。
美術といってもさまざまなジャンルがあります。アウトサイダー・アートについて、また画家についても紹介していきたいと思います。
知らないジャンルを知ることで、美術のより奥深さや面白さを実感できるのではないでしょうか。
アウトサイダー・アートとは?
アウトサイダー・アートはその名の通り「美術業界の外部」に位置する作品のことをいいます。
1972年に美術評論家のロジャーカーディナルが提唱したものになります。美術の学校などに行って基礎から学んで得た技術や知識ではなく、独学で趣味として制作しているものです。
商業用というよりは自分の満足のために制作しているような作品です。師匠がいるわけでもなく、美術とは縁がなかった人が描く作品の総称でもあるのです。
アウトサイダー・アートの定義は、ゴッホのように入院歴があるわけでもなく、精神病にかかっているわけでもなく、日常生活を普通に送っている人が美術の作品を制作していることです。
日本でこそ、アウトサイダー・アートは知られていませんが、世界では、専門の展示会などが行われており、美術を趣味として楽しんでいる人の作品に触れることができます。
ただ、商用にしていないため、市場に出回るのが遅く、大抵は亡くなってから作品が発見されて高く評価されるパターンがほとんどです。生きているときに高く評価されることは少ないので、作品として埋もれてしまうこともあります。
アウトサイダー・アートの名前をつけたのはロジャーカーディナルです。ですが、実はもともとフランス語にある「アール・ブリュット」の言い換えとして生まれた言葉です。最初は厳格な決まりこそあったものの、年々その範囲が広くなっています。
美術教育を受けていない画家はもちろん、障害を持っている人、社会的な立場のない人など幅広い人物に対して使われる言葉になりました。明確な定義が決められているわけではありません。
現在では有名になっている作品のなかにもアウトサイダー・アートに該当するものがあり、美術の幅広さを実感せずにはいられません。
アウトサイダー・アートの特徴とは?
幅が広いので具体的にこれがあれば、アウトサイダー・アートという明確な定義があるわけではありません。そのため、見極めるのは少し難しいかもしれません。
アウトサイダー・アートの特徴の一つに「幻想的な世界観」があります。実際に目で見て描いたものではなく、通常では考えられない世界観の構図や色彩で描く絵が特徴です。
画家から見えている世界が、一般人とは異なるものなので、不思議な気持ちになります。もちろんアウトサイダー・アートのなかには、現実的な描写で描いているものもあるので、すべてではありません。あくまでも、幻想的な作品の割合が多いのも特徴の一つになります。
また、幻想的なイメージと一緒に「型破りなアイディア」もアウトサイダー・アートです。こんなデザインどこで思いつくのだろう?など、常識にとらわれることのない作風で描きます。時として、そのアイディアが後世の画家に影響することもあり、型破りな画風が素晴らしいものもたくさん存在します。
これらの絵を描くときは、画家にとっても精神的な極限状態になっていることもあります。1920年頃から精神病を患っている人の作品についての芸術に注目が集まるようになります。正式な美術教育を受けている芸術家であっても、精神病が原因となりアウトサイダー・アートの分野で考えられている人もいます。
ゴッホも耳を切り落とすなどの奇行もあったため、アウトサイダー・アートの流れであると考えられます。有名な画家のなかにも精神病を患っていた人物は少なくありません。それでも奇抜なデザインが受け入れられ、一つの作品としても高く評価されているのです。
アウトサイダー・アートはその時代によっても流行りのようなものがありますが、それらの型に一切はまることなく、芸術作品を制作している画家でもあるのです。美術の世界で確立した価値観を変えることでもあり、否定することで新しい芸術が生まれています。
アウトサイダー・アートで有名な画家や作品
アウトサイダー・アートのなかでも、数々な有名な画家や作品が存在します。
ジャンルも広く作品数もあるので一概にはいえませんが、なかでも押さえておきたいおすすめの画家や作品を紹介していきたいと思います。
今はアウトサイダー・アートと言われていても、後世に大きな影響を与える人物になることだって十分に考えられるのです。
ヘンリーダーガー
アウトサイダー・アートの巨匠として知られている、最も有名な人物です。アメリカ出身の画家でもあり、病院の清掃員として仕事をしていました。
ワンルームのアパートにて15145ページにもなるファンタジー小説を描きましたが、出版されていないためギネス記録になりませんでした。その小説のなかに描かれていた水彩画の挿絵が有名になったことで、画家として認められるようになりました。
彼の作品の特徴は、陰陽が同居した不思議な世界観で描かれていることです。例えば、大量虐殺を描いたシーンかと思えば、子どもたちが笑顔で遊んでいる姿を描いたものなど、両者が真逆に存在するものを描く独創的な世界観です。
ヘンリーダーガーは生まれたときに母親を亡くし、1905年に支えてくれた父親も亡くします。読解力に優れていたものの、知的障害者施設で生活するなど、苦しい時代を生きていたようです。
ヘンリーダーガーは作品集なども販売されており、非現実の王国をテーマにしたものがたくさん描かれています。彼の世界観を知ると、アウトサイダー・アートがより明確に見えてくるかもしれません。
ルイス・ウェイン
統合失調症になった猫を専門に描く画家としても知られている人物です。
もともとイギリスのイラストレーターになり、大きな目をした猫(子猫)などのイラストで知られています。年間に数百枚のイラストを描いていた画家でしたが、ビジネス的な才能がなく安く作品を買い叩かれ生活に困る結果になります。
その後統合失調症になり、幾何学的な絵を描くようになっていきました。ルイスが23歳のときに妹の家庭教師であったエミリーと結婚したものの、がんに侵され3年で亡くなってしまいます。エミリーが病気で苦しんでいるときに、迷子の子猫であるピーターをとてもかわいがり癒やされていました。それに触発され、猫のイラストを描くようになったと言われています。
ルイスはいつもお金に困っており、母親と妹の生活費をすべて賄っていたといわれています。彼自身も素朴で優しい男性だったことで、苦労することになってしまいました。猫の絵のテイストが変わり抽象化になっていくと、晩年には装飾花されたデザインの猫をメインに描くようになりました。
まとめ
アウトサイダー・アートについてわかりやすく紹介しました。
どの作品もとても素晴らしく、描いた人物の人柄を表しているものばかりです。繊細なタッチで描いているものもありますし、色彩などの特徴もあります。
さまざまな要因によってアウトサイダー・アートに分類されるようになった作品も、とても奥深く面白い作品ばかりです。
アウトサイダー・アートの魅力をあなたもぜひ実感してみてくださいね。