現在、ウィリアム・モリスの作品は、さまざまな日用品や衣類に描かれています。
壁紙にウィリアム・モリスを選べば、それだけで豪華な内装になりそうです。
しかし「すべての壁紙は無理」でも、絵画としてウィリアム・モリスを飾ってみてはいかがでしょうか。
この記事では、多方面の芸術分野で活動し、それぞれで大きな業績を挙げたウィリアム・モリスについて解説します。
知っておきたいウィリアム・モリスの基礎知識
ウィリアム・モリスは、イギリスの裕福な家庭の長男として生まれました。
自然に恵まれた環境で育った経験は、ウィリアム・モリスの作品に大きく影響を与えています。
オックスフォード大学の学生時代は神学を学んでいましたが、のちに親友でビジネスパートナーとなるエドワード・バーン=ジョーンズとの旅がきっかけで芸術を志します。
結婚を機にウィリアム・モリスは自宅を建てます。
建物のデザインだけでなく、内装もモリスの希望通りにつくった家です。
この自宅は「レッドハウス」と呼ばれ、モリスの手を離れたあとも内装は維持され、2003年にナショナルトラストが買い取り、大切に維持保管され一般公開されています。
「レッドハウス」はモリスが提唱したアーツアンドクラフツ運動を丸ごと感じる家です。
アーツアンドクラフツ運動とは、簡単に説明すると「美術(アーツ)と日用品や実用的なもの(クラフツ)を一体にして考える」ということです。
モリスが生きた時代は、大量生産大量消費の時代でした。
モリスは、安くて質が悪いものをたくさん作ってたくさん消費するのではなく、質のいいものを大切に使うことを提唱したのです。
例えば「壁紙はクラフツとして考えれば、たんなる壁を覆う紙ですが、アートと一体化して考えると壁にはる絵画として考えることができる」ということになります。
ウィリアム・モリスは、アーツアンドクラフト活動を「芸術品とも思えるような豪華な壁紙」「絵画のようなテキスタイルデザイン」にして実現した人です。
ウィリアム・モリスはデザインの仕事だけでなくモリス商会の経営者・染色工芸家・デザイナー・出版発行人・古建造物保護活動家・園芸家など、さまざまな仕事をひとりでやりつづけ62歳でこの世を去りました。
最期を看取った医師の言葉「死因はウィリアム・モリス」はモリスの人生を物語っています。
それだけモリスは人生を突っ走ったのです。
ウィリアム・モリスの代表作品を詳しく解説
代表作「いちご泥棒」
ウィリアム・モリスの代表作品といえば1883年の「いちご泥棒」です。
いちごの葉と実、そしてその実を狙っている鳥がバランスよく配置されています。
色は、モリスの作品の中では一番鮮やかな作品かもしれません。
ベースの藍色が全体を引き締めています。
染め方は、藍染で藍色に布を染めてから、色を抜いてさらに違う色を入れるという手の込んだ作り方をしています。
染色と脱色と洗浄を繰り返す作業は完成までに数日間かかりました。
藍色はモリスが一番こだわった色です。
モリスは「少ない経費でいいものを作ること」をモットーとしていたため、手間と経費がかかる「いちご泥棒」はモリスの希望とはちょっと違ったものだったのかもしれません。
しかし「いちご泥棒」は、現在でも生活の中に美を取り入れたい人達に愛され続けています。
「いちご泥棒」は絵画のサイズにトリミングしても充分な存在感を発揮します。
アートパネルのようにしてもおしゃれです。
天然染へのこだわり
モリスは、化学染料による染めを嫌い天然染めにこだわりました。
モリスは、茶色はクルミの実の皮、黄色はキバナモクセイソウを使って染めた色を好みました。
作品「スイカズラ」は、黄色と緑と茶色を基調とした作品です。
天然染めの豊かな色合いになっています。
壁紙「ジャスミン」のすばらしいところは、版木の切れ目がわからないところです。
壁紙の場合は、模様が彫られた版木を使って柄を描きます。
簡単に説明すれば、スタンプを押していくイメージです。
同じスタンプをつなげて押しても、つなぎ目はなんとなくわかってしまうものです。
しかし、モリスの作品は版木のつなぎ目がわかりません。
ウィリアム・モリスの作品には、レッドハウスの庭に植えられていた植物がたくさんモチーフとして使われています。
果実がたわわに実っている作品「果実」やレッドハウスの花壇と同じ垣根が描かれた作品「トレリス」は、レッドハウスの庭そのものです。
まとめ
ウィリアム・モリスは「家の中に役に立つかどうかわからないものと美しいと思えないものは置かないこと」と言っています。
自分が美しいと思うものだけに囲まれて生活することは贅沢に思われるかもしれません。
しかし、自分が美しいと思うものは大切に長く使います。
気にいった「いいもの」を多少値が張っても手元において使うことは、モリスが提唱したアーツアンドクラフツの精神であり、現在さけばれているSDGsの中のひとつ「つくる責任つかう責任」にも通ずることなのではないでしょうか。